テレビ東京で4月29日深夜に初回が放送されるや、放送中X(旧Twitter)で日本トレンド1位になるなど大きな反響を呼んだ「TXQ FICTION/イシナガキクエを探しています」が、TVerにて配信中の(4)をもって完結した。

「TXQ FICTION」で制作の中心となったのは、テレビ東京の大森時生プロデューサー、寺内康太郎、皆口大地、近藤亮太という4名のクリエイターだ。インターネット上に真偽不明の考察が飛び交い、新たな都市伝説になってしまった感すらある“イシナガキクエ”。多くの視聴者が彼女を探し回った1か月間が終わったいま、PRESS HORRORでは4人のクリエイターに2人ずつでインタビューし、“イシナガキクエ”の正体から、いまだからこそ話せる制作の裏側について語ってもらった。

寺内監督と皆口が対談した前編に続き、後編では「テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?」「祓除」を手掛けた大森プロデューサーと、『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』で「第2回日本ホラー映画大賞」大賞を受賞した近藤監督による対談をお届けする。

■「“公開捜索番組”は、全員が演技しているように見えて怖かった」(大森)

――はじめに、「TXQ FICTION」を構想されたきっかけをお聞かせください。

大森「最初は『フェイクドキュメンタリー「Q」』を僕自身ファンとして楽しく拝見していて。昨年皆口さんと対談をさせていただいた時にシンプルに楽しくて、色々通じるところも多かったんです。その後、寺内さんも交えて3人でご飯に行った時に『“公開捜索番組”ってなんか不気味ですよね』という話をしたので、構想としてはそこが最初になると思います」

――“公開捜索番組”という設定については、元々考えてらっしゃったのですか。

大森「10年ぐらい前までは、“公開捜索番組”って結構テレビで流れていたんですよね。あれにそもそも異常な怖さがあるなって思っていまして。何年も見つからなかった人を放送時間中に見つけ出せると思っているノリとか、テレフォンオペレーターやカメラワークまで含めて、全員が演技しているように見えていました。『イシナガキクエ』の参考に過去の番組を見ましたが、どれも“偽物”に見えましたね。『イシナガキクエ』以上にフェイクっぽく見えるものもあったし(笑)。当時からそこまで言語化していたわけではないですが、寺内さんも似たようなことは思っていたのではないでしょうか」

――近藤監督は、大森さんからの打診を受けてどのように感じられましたか。

近藤「『イシナガキクエ』の企画がある程度固まったタイミングでお声掛けいただいたんです。お3方の作品は昔から追いかけていたので、ある種のファン目線というか、『おもしろそうだな』という気持ちで参加させてもらいました。かつての“公開捜索番組”ってホラーに転じ得る雰囲気が常にあると思いますし、そこに目を付けるのは流石だなと唸りました」

――大森さんが近藤監督にお声がけされたきっかけは?

大森「近藤監督のSNSを拝見していて、心霊ドキュメントやフェイクドキュメンタリーに造詣が深い方だなと感じて、DMさせていただきました。近藤監督が昨年『第2回日本ホラー映画大賞』で大賞を受賞された『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』でも、VHS画質のPOV映像を長尺でしっかり見せたうえで、前後をフィクションで挟み込む構造とその接続の仕方は『これは発明だ!』と思ったんですよね。フェイクドキュメンタリーの構造を利用した騙し討ちみたいな手法は僕も使ってきたし、それである程度話題になるのはわかっていたんですけど、今回『TXQ FICTION』ではタイトルにも“フィクション”と掲げているように、物語としてのおもしろさを追い求めた方が長く残る、強度があるものになるなと思っていたので、近藤監督に入っていただいて、フェイクと物語性の接続方法を一緒に考えられたらいいなっていうのを寺内さんとも話していましたね」

■「VHSの画質が怖いっていう感覚は、最近発見されたもののような気がします」(近藤)

――大森さんの過去作「Raiken Nippon Hair」や「テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?」など、新しいのにどこかで観たことがあるような、独特のノスタルジー観はどのような発想から生まれたのですか。

大森「僕自身はVHSど真ん中の世代ではないんですが、そんな僕でさえなんとなく、VHSの画質とノスタルジーは強く結びついている気がするんですね。その画質のなかでちょっとボタンを掛け違えている映像を作ることで、過去に見聞きした記憶すら歪むような不気味さ、いわば『ノスタルジーが歪む瞬間』に興味がありますし、個人的にすごく好みなので、それゆえにそういうモチーフが多いのかもしれないです」

――近藤監督は大森さんの作品をご覧になるなかで、共通点のようなものを感じていましたか。

近藤「そうですね。VHSの画質って、かつては別に怖いものとして観られていたわけじゃないのに、ノスタルジーを感じる部分も含めて怖いっていう感覚は、大森さんの作品なんかを通して最近発見されたような気がしていて。それに、大森さんの作品はシンプルにおもしろいので、『ホラーを作るうえでなにを観たらいいですか?』って聞かれると、『Q』とか『このテープ』を観てほしいと答えてきました」

大森「光栄です(笑)」

■「“イシナガキクエ”をみんなが探している状況は、彼女を実体化する壮大な実験をしているように感じました」(大森)

――本作は(1)から10日後に(2)が放送されるという特殊なスパンで発表されたことで、さらに大きな話題を生んでいったように思います。1週間でなく10日という空白期間を設けたのは、意図的だったのでしょうか。

大森「放送日はまったく意図的ではなくて…大人の都合です(笑)。本当は1週間おきが良かったです。でも間が10日もあったことで、視聴者の方からいただいた声を本編に取り込むことも可能になりました」

――劇中で情報提供を呼びかける電話番号にかけると、実際に繋がるということでも話題となりましたが、視聴者から寄せられた情報が画面に登場しているのでしょうか。

大森「スタジオパートはまとめ撮りしているので僕たちで作ったものですが、テレビ局でスタッフが電話を受けている映像に映っているのは、本当に来た電話に対応している様子です。もし余裕があったら可能な限りリアルタイムに撮れて、もっとすごいものになると思うんですけど、今回の取り組みのなかでは、シンプルにこれが予算の限界でしたね」

――電話番号サイトで劇中の番号を検索すると物語性のある書き込みがされていたり、真偽不明の情報が都市伝説的に広まっていったわけですが、これも番組サイドが仕掛けたものなのでしょうか。

近藤「Xの番組公式アカウント以外では、なにも発信していないですよね?」

大森「ですね。実は本当に“仕込み”は1つもやっていなくて、全部視聴者が発信してくれたものですね。都市伝説の発生の仕方と類似しているのがすごくおもしろいと思ったし、口裂け女の発端もこういう感じだったのかなと。“イシナガキクエ”をみんなが探して、何度も呟いたり、何人もの頭の中にいたりっていう状況は、なんだか“イシナガキクエ”を実体化する、壮大な実験をしているようにも感じました」

――“イシナガキクエ”を名乗るSNSアカウントも偽物ですか?

大森「本当に1つもやってないんです!(笑)。だからなかにはやりすぎているものもありましたね。盛り上がっていただけること自体は本当にありがたいのですが、違法行為だけはしないでいただきたいというのが僕の願いです」

■「僕らが想定している“イシナガキクエ”像は普通の女性だと思います」(近藤)

――いよいよ最終回となる(4)が配信となったわけですが、結局、作中における“イシナガキクエ”とは何者だったのでしょうか。

大森「(4)では、彼女が本当に普通の女性だったんだなということが分かると思います。でも、“怪談”が発生する過程と同じで、普通の女性にいろんなことが乗っかって、呪いや霊として扱われるようになってしまうという」

近藤「描き方として、そこまではっきりとは明示していない気もしますけど。でも一応そうであったのだろうということが示されますし、僕らが想定している“イシナガキクエ”像は普通の女性だと思います」

大森「ラストは、結構感動してくれる人もいるんじゃないかなと思います」

近藤「はい。作り手の僕らとしては、万感の想いでラストシーンを見守りました」

大森「振り返ると、米原実次とイシナガキクエの2人の物語だったのかもしれないって思えるんじゃないでしょうか」

近藤「それが新鮮だと思って作っていました。普通フェイクドキュメンタリーというフォーマットで作ると、陰惨な設定になればなるほどおもしろいとみなされるような側面があると思っていましたから」

大森「構成会議の段階で、『ラストシーンとしてこれは新しいし、物語としていいですよね』、という認識で進んでいたので、新しい読後感を感じてもらえるかなって話をした記憶がありますね」

近藤「それぞれのエピソードごとのおもしろさもありつつ、ラストシーンに向かって話が進んでいるんだという気持ちで作っていました」

■「余白を持ったうえで、物語をちゃんと提示するという終わり方にしたつもりです」(大森)

――全4話の完結を迎えて、どのような反応を期待していますか。

大森「『こういう物語でした』というのが、そこまで明確に示されるわけではないので、モヤモヤしてしまう方もいるかもしれないですね。ですが僕たち的には、余白を持ったうえで、物語をちゃんと提示するという終わり方にしたつもりです」

近藤「フェイクドキュメンタリーというフォーマットを使っていると、物語上の結末を明示することが難しいんです。『なにが起きていたか?』を全部事後で語るフォーマットなので、その瞬間を撮ることができません。でも逆説的には、想像の余地が生まれることで考察がしやすくなるのかなって。そんな余白をおもしろいと感じてもらえる結末になっているといいですね」

――「TXQ FICTION」の今後も気になるところですが、最後に、お2人が今後映像でトライしてみたい“恐怖”の伝え方を教えてください。

大森「やったことないシチュエーションを本当にやってみたいと思っています。例えば宇宙空間とか。スマホを付けた風船を飛ばして、2〜3年後に違う場所で発見されたっていうニュースがありましたが、ジュブナイル的な良さも感じるし、そこになにかが映っていた…みたいな始まり方がおもしろそうだなっていう話はしましたね。それこそ『Q』の『フィルムインフェルノ』なんか、まだ世間から発見されていない不気味さや恐怖の種類だなって思って、すごいおもしろかったんです。『よく考えたら、これってめちゃめちゃヤダな』って思えるような。まだ僕もそんなに思いついていないんですけど、観た人の日常生活に怖さの種類を一つ増やせるようなものを作れたらと思います」

近藤「いまも今後も目指したいと思っているのは、作品を観終わったあと、『この世には、絶対になにかがいる。未知の“怖いもの”がこの世界にはいるんだ」っていう気持ちで日常生活を送ってもらいたくて」

――アリ・アスター監督のネットミームみたいですね(笑)。

近藤「気軽に『結局、人間が一番怖いですよね』とか言われない、“怖いもの”の存在を信じられる世の中にしていくための一助になればいいなという気持ちで、ホラーを作っています。そのためには想像力を刺激するような、リアルな作品を作らなければいけません。映画、テレビ、YouTubeとそれぞれのフィールドの強みを生かしながら、怖い映像を作っていきたいですね」

取材・文/小泉雄也