つながった極太の眉に横分けの髪型、引き込まれそうなダークな眼差し…かつて世界的に話題を集めた不気味な男、“This Man”の存在を覚えているだろうか?

インターネット上で注目を集めたこの“This Man”と呼ばれる男を題材とした映画『THIS MAN』が6月7日より公開中だ。一世を風靡したネットミームゆえにこの顔を見たことがあるという人も多いと思うが、どんな話だったか覚えてない人も多いことだろう。

■世界各国で不特定多数の夢に登場する奇妙な男…

2000年代後半に突如として語られるようになった“This Man”というネット上の都市伝説。その内容は以下の通りだ。

2006年、奇妙な男の夢に悩まされる女性から相談を受けたニューヨークの精神科医が、証言をもとに男のモンタージュ写真を作成。すると数日後、同じ男を夢で見たことがあるという別の患者が現れる。現実では会ったことがない男が2人の夢に現れたことを不思議に思った精神科医が、写真を同業者に見せたところ、彼らの患者もこの男を夢で見ていたことが判明する。

さらに「EVER DREAM THIS MAN?(この男の夢を見たことがありますか)」という言葉と共にネット上に男の画像を上げると、ロサンゼルス、ベルリン、サンパウロ、北京、パリ…など世界各国の主要都市で少なくとも2000人を超える人から同じ男を夢で見たことがあるという声が届く。しかし、彼らに特に共通点はなく、また夢で見る男の正体や目的も不明で…というなんとも気味の悪い話だ。

■軍による陰謀?神?意外なその正体とは

このショッキングな話は、すぐにネット上で話題となり、“This Man”とはいったいなんなのか?様々な仮説が唱えられていく。ユングの集合的無意識に基づき、This Manを「夢で見る典型的な人の姿である」とする説や、神が具現化した姿という宗教的な説。夢を操作するアメリカ軍の仕業といった陰謀論めいたものに、人の夢を渡り歩くことができる超能力を駆使したドリームサーファー理論まで、ネット上は議論であふれ返っていった。

しかしその真実は意外にもあっけなく、実はイタリアの広告会社の社長アンドレア・ナテッラという男が、バイラル・マーケティング(クチコミを利用して不特定多数に広まるよう仕掛けていくマーケティング手法)として「thisman.org」というサイトを立ち上げたことを告白。まったくの作り物だったことが判明した。

しかしその一方で、このバイラル・マーケティングがなにを宣伝していたかについては明言されておらず、この手法の効果を試すためのテストだったという話や、ある映画の宣伝だったという説もあり、なんとも煮えきらない余白が人々を引きつけてきた。

■This Manの物語を新たな要素を盛り込みながら映画化

その話題性の高さから、日本でも漫画やドラマなど様々なエンタメの題材とされてきたThis Man。「世にも奇妙な物語」では「夢男」というエピソードが作られたり、「MOZU」にThis Manをモデルにしたと思しき、人々の夢にだけ出てくる“ダルマ”というキャラクターが登場したことも。

そして今回公開される映画『THIS MAN』は、この都市伝説に独自の解釈を加えて映像化した1作だ。ある田舎町で連続変死事件が発生し、どの被害者も生前、眉のつながった奇妙な風貌の男を夢のなかで見ていたことが判明する。夢のなかに出てきた男は「あの男」と呼ばれ、人々を恐怖に陥れるなか、夫と娘と共に幸せに暮らす八坂華(出口亜梨沙)の身近にも危険が迫り、やがて究極の選択を突きつけられる。

本作では「あの男を夢に見たら死ぬ」というホラー的な要素が付け加えられており、伝染するような恐怖が描かれていく。オウム真理教事件をベースにカルト洗脳などの社会に潜む闇などを描いた『わたしの魔境』(23)の天野友二朗監督がメガホンを握り、コロナ禍の惨状を風刺する社会的メッセージを盛り込んだ独特の視点にも注目だ。

懐かしのネットミームに新たな要素を加えて描いた『THIS MAN』。奇妙な男がなぜ人々を引きつけるのか、作品を見ればその答えがわかるかもしれない。

文/サンクレイオ翼