コロナ禍の今、苦境に立たされている飲食店の状況を少しでもよくしようと、東京都内では「ゴーストレストラン」と呼ばれる新しいスタイルのビジネスが現れています。

 都内にあるビルでは、おいしそうな料理が作られています。ところが厨房(ちゅうぼう)の外を見てみても客席がありません。あちこちからおいしそうな匂いが漂っているビルの中を歩いてみてもキッチンが並ぶ光景が広がり、どのフロアにもやはり客席がありません。

 実は5階建てのこのビルに入っているテナントは全て、客席がない厨房だけの「デリバリー専門レストラン」です。ビルの中には全部で21の店舗が入っていますが、店は看板を出していないので、ビルの外から見てもレストランが入っているのは分かりません。その実体がよく見えない様子が「ゴースト」と呼ばれるゆえんです。今、このような「ゴーストレストラン」が人気を集めています。デリバリー店の集まるビルでは、配達員がひっきりなしに出入りしています。

 このビルに出店した店の一つ「ALMOND」の山内義信シェフは「実店舗を持とうと思っていたが、急にコロナ禍になってしまった。コロナが落ち着くまではデリバリー業態で頑張ろうと、このビルに入った」と話します。山内さんは「お客さんに直接『ありがとう』『いらっしゃいませ』と言えないので、おいしい料理を手作りで熱々の最高の状態で出すように心掛けている」と話してくれました。

 また、肉厚で濃厚な味のハラミステーキが一番人気の「東京chef's STEAK」の戦略は、デリバリーならではの“プラスアルファ”のサービスです。尾花みきマネジャーは「普通の飲食店なら接客できるが、デリバリーでは直接顔が見えないため、店の思いが伝わりづらいと感じている。手書きのメッセージカードを添えたりして『ここに頼んでよかった。もう1回頼みたいな』と思ってもらえるよう心掛けている」と話します。

 店名に使うほどの看板メニューに注文が殺到するという店舗では、客席がないならではの悩みもあります。「MY屋台メシ!!チキンオーバーライス」の武田玲佳キッチンマネジャーは「デリバリーだと、端末を通してどんどんオーダーが入ってきてしまう」と打ち明けます。店は厨房だけのため、大人数のスタッフは入れません。しかし、客がアプリを使って注文するこのシステムでは少人数のスタッフのキャパシティーを越える大量注文が一気に押し寄せる可能性があります。そんな時もできるだけ客と配達員を待たせないように対応していくしかありません。それでもコロナ禍の今、働く場所と自分の料理を必要としてくれている人がいる事に感謝しているといいます。

 このビルの仕掛け人であるSENTOENの山口大介代表は、コロナ禍の飲食店事業について「なかなか苦しい中、少しでも私たちがお手伝いできることがあればと考え、テナントに入ってもらった。夜8時以降に店内飲食の営業ができないのは苦しいと思うが、デリバリーは夜8時以降も営業できる強みがある。夜間に食べる場所がなくて困っている人もいると聞くので、お互いのためにもデリバリーを使ってもらえたら」と話しています。

 飲食店の「何としても生き残る」という強い思いとコロナ収束の願いが込められた料理は、きょうもお客さんの元へと届けられます。