東京都内に「夢を追う人だけが住むことができる」というシェアハウスがあります。そこに住む1人の男性の夢は“世界一のあるもの”を作ることだといいます。男性に密着取材しました。

 昭和を代表する漫画家・手塚治虫さんや赤塚不二夫さん、藤子不二雄さんらが若いころ一つ屋根の下で切磋琢磨(せっさたくま)して夢を追い掛けた伝説のアパート「トキワ荘」が東京・豊島区にありました。

 時代が進み令和となった現代にも、夢追い人たちが集う住居が板橋区常盤台にあります。その名も「Tokiwa-Sou(トキワソウ)」。ここに、夢を持つ男性4人が共同生活をしています。今回はそのうちの1人、片山慈英士さん(26)に密着しました。彼の夢は「世界一のボクシングジムを作ること」です。

 彼の夢の原点は、少年時代の忘れたい記憶にありました。片山さんは「母子家庭で、父親と関係が良くなかった。子どものころ、母親が父親に暴力を振るわれているところを見たこともあった」と語ります。大好きな母親の苦しむ姿に、当時はなすすべがなかったという片山さんは、母親を守るためには「自分が強くならなければ」と思ったといいます。

 高校からボクシングを始め、大学では関西1部リーグで優勝、全日本大学王座決定戦でも準優勝を収めるなど輝かしい成績を残しました。父親を憎み、不純な動機で始めたボクシングでしたが、気が付くとその魅力にはまり、プロを意識することもありました。ところが気が付くと、自分の立ち位置、目標を見失っていたといいます。片山さんは一度グローブを脱ぎ、自分自身を見つめ直し夢を探すため、世界一周の旅を決意しました。

 2017年7月、後ろ髪を引かれる思いで世界一周の旅費を稼ぐため、まずはオーストラリアの地へ降り立ちました。「オーストラリアに着いた時、全財産が3万円ぐらいしかなくて、早く仕事を見つけないと野垂れ死ぬという状況だった」という片山さんでしたが、片道切符で乗り込んだ未知の国でとっさに頭に浮かんだのは、やはりボクシングでした。英語が苦手であるにもかかわらず、職を求めてジムにも直接交渉しました。言葉が通じなくても持ち前の明るさと人懐こさですぐに打ち解けることができた片山さんは、さらにジムを借りて自分のボクシング教室まで開けることになりました。ボクシングを教えることに魅力を感じ始めた片山さんの世界一周の旅はジム巡りがメインになったといいます。

 「いろいろな国のボクシング・格闘技ジムの良いところだけ集めたら、今までにないようなジムができるのではないか」という思いを抱くようになった片山さんの夢に最も影響を与えたのは、ボクシングが普及していない貧しい国で、初めて装着したグローブに目を輝かせる子どもたちの姿でした。ボクシングを知らない子どもたちが興味を持ってくれることに片山さんはこの上ない喜びを感じました。

 およそ4年間の夢追い旅の答えは「世界一の子ども向けボクシングジムを作る」ことでした。2020年11月に帰国した片山さんは現在、都内のジムで働いています。月の収入は10万円前後ですが、そのうち7万円はジム開設資金のために貯蓄に回しています。残りの3万円で生活を可能にさせているのが板橋区にある「Tokiwa-Sou」です。

 Tokiwa-Souは住居費が無料、水道・光熱費も無料、Wi-Fiも無料、米や焼酎まで無料と至れり尽くせりです。この理由についてオーナーの鈴木雄二さんは「東京に来ても家賃が高く、夢に挑戦するつもりで東京に来たのにいつの間にか生活していくために働き詰めの毎日を過ごすことになって、夢がどこかに追いやられる。挑戦者が自分の夢に向けて突き進む状況を作れば、夢がかなうのだったら見てみたい」と語ります。

 ここに住むためには、貯めたお金と時間を「全て夢に使うこと」が条件です。無料のサービス以上にTokiwa-Souに住むメリットについて、片山さんは「全員が目標を持っている。お互いに刺激が生まれるのが良いところ」といいます。

 片山さんは2022年6月までにジムの設立を目指しています。片山さんは「まだ経営については素人だが、今までお母さんに迷惑しか掛けてこなかったので、早くジムを作ってお母さんに恩返し、親孝行したい」と話しています。