コロナ禍のオペラ公演はさまざまな制約の中、感染対策も求められています。「距離は離れていても気持ちは近く」という演出家、出演者の思いを聞きました。

 5月14日に東京・新宿区で行われていた、あるオペラの舞台稽古では、男女が別れを惜しむシーンでも感染対策のため、お互いが向かい合わず距離を保ったまま演技をしていました。ここでは2メートル以上の間隔を厳重に守りながら稽古が行われ、また1時間ごとに中断して扉を開け、スタジオの空気を入れ替えています。

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中でのオペラの上演稽古にはさまざまな制約があるといいます。舞台の演出家は「今回の場合は舞台がそれほど広くないのでわりと横並びになることが多いが、常に距離を意識して、心の距離と体の距離の間隔を演じ手に持ってもらうことを意識している」と話します。また、出演者は「もちろん光太夫の役はアリア(詠唱)ばかりで他の歌手とアンサンブル(重唱)する時間もないが、その中でも二重唱やハモリがある。今はこういう状況で距離を取りながらになるが、逆に心の距離を近くして取り組めている気がする」と話します。

 5月28日に東京・港区にあるサントリーホールで公演が控えているオペラ「光太夫」は、江戸時代に嵐で漂流した船の船頭・大黒屋光太夫が遠く離れたロシア帝国に流れ着き、そこで過ごした10年余りの物語です。この、今から200年ほど前の日ロ友好の架け橋になろうとした男の物語の上演は1993年の初演以来、28年ぶりです。本来は2020年に上演するはずでしたが、新型コロナの感染拡大のため、公演は延期になっていました。

 満を持して今年5月に行われることとなった公演も、緊急事態宣言が延長されたことで実施が危ぶまれました。主催者である二期会21の桐谷暁史さんは「状況は通常には戻らないかもしれないが、新しい表現の仕方が出てくるかもしれないと期待しながらみんなで頑張っている」と話し、しっかりと感染対策を行った上での公演を目指しています。

 今回、遠く離れたロシアと祖国・日本との架け橋になろうとした男を演じる加来徹さんも「今のディスタンスとは違った果てしないような希望に光太夫自身が10年間憧れ続けていたと思うので、いま私たちが演奏の距離があるとか、今までのようにコンサートができない、聴衆との距離があるという状況を生かしつつも、光太夫の気持ちになりきってさらに気持ちをぶつけていきたいと思っている」と語ります。

 主催者の桐谷さんは「(コロナ対策として)出演者全員のPCR検査を実施して舞台に臨む。去年の延期は残念だったが、出演者もお客さまも楽しみに1年待っていたと思うので、気を引き締めていい舞台になるよう全員で頑張っていきたい」と意気込みます。

 異例づくめの中、精いっぱいの対策をして挑むオペラ「光太夫」は、サントリーホールで5月28日から開演されます。