TOKYO MX「news TOKYO FLAG」では2021年2月に歌舞伎役者・大谷桂三さんの半生をお伝えしました。今回番組では、桂三さんの息子であり弟子でもある龍生さんに密着しました。9月に日本橋劇場(東京・中央区)で女形の舞踊「藤娘」を演じた14歳の龍生さん、ここにたどり着くまでには、さまざまな葛藤がありました。

 龍生さんは、女形の舞踊「藤娘」の手ほどきを7歳の頃から受けていました。当時のことを龍生さんは「父親もやっていたのでやるべきことなのだろうと思っていた」と話します。歌舞伎の町・銀座で役者の家に生まれた彼にとって、稽古は日常の風景でした。そして10歳になると、華々しく初舞台を踏みます。しかし、それは世間との違いを感じる出来事でもありました。龍生さんは「友達に歌舞伎をやっているのを知られることが恥ずかしかった」と話します。彼は恥じらいの気持ちとともに、偏見の目で見られているのではないかと思うようになったのです。さらに、厳しい稽古も重なり歌舞伎が嫌になって家出をすることもあったそうです。師匠で父親の桂三さんは当時のことを「私が厳しく言ったことがあった。叱られるから歌舞伎が嫌になったのではないかという心配はあった」と振り返ります。

 その後、龍生さんは小学校の時の友人がいない中学校に進学しました。いま、学校で彼が役者であることを知っている人はいないということです。役者であることを友人に隠す理由について「歌舞伎役者だと堂々と言えるような立場ではない」と話します。彼が劣等感を持つ理由は、いとこである二代目・尾上松也さんの存在です。名実ともに歌舞伎界のプリンスである松也さんは身近な存在である一方、雲の上の人でもあると言います。今の力量で役者と名乗ることに後ろめたさを感じていた龍生さんですが、この夏には女形としての初舞台を控えていました。挑戦するのは歌舞伎舞踊でも人気の演目「藤娘」です。藤の花の精が、娘の姿で現れ女心を踊るという演目です。

 8月10日、7年の年月をかけ教わった舞踊「藤娘」を披露する時がやってきました。緊急事態宣言中の公演ということもあり、会場では徹底した感染対策が行われていました。本番前、師匠の桂三さんは公演の趣旨について「主催は大谷桂三になっているが、誰のためにやるのかと言うと龍生のために自主公演をやらせてもらっている。自分の舞台での居所を覚えて身に付けるためには、女形が一番分かりやすい」と語りました。龍生さんは、高みを目指すため師匠である父が与えた試練に挑みました。この日、龍生さんは「藤娘」で女形としての初舞台、そして「二人猩猩(ににんしょうじょう)」で親子の初共演も果たしました。訪れたお客さんからは「14歳のかわいらしい藤娘と親子共演。これからが楽しみ」「14歳ならではの初々しさがあってすてきだなと思った」などの感想が上がりました。そして息子の成長に父の桂三さんは「親ばかですが、藤娘の方はいまの年なりの良さが見受けられたので、このまま踊りに励んでほしい」と思わず頬も緩みます。一方、龍生さんは「初めての女形は少々きつかった。いくら稽古で頑張っても、本番では生かせない面があったり、最後まで気を抜いてはいけないと改めて学んだ」と本音を語りました。

 この夏、師匠からの試練や父親の想いを受け止めた龍生さん、「堂々と役者と名乗るという夢」に一歩近づいたのかもしれません。