九州大学(九大)は9月27日、人工知能(AI)を用いて、疾患の原因となるタンパク質のアミノ酸配列から、そのタンパク質を狙った治療薬を見つけ出す方法を開発したと発表した。

同成果は、九大 生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授、米・ハーバードメディカルスクール・システム生物学部門の清水秀幸リサーチフェロー、北海道大学 人獣共通感染症 国際共同研究所の澤洋文教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、査読前のプレプリントとして、生物学のプレプリントサーバー「bioRxiv」に掲載された。

日々、研究開発が進められている治療薬や予防薬などが、実際に患者に届くまでは非常に長い時間がかかることが知られている。その理由の1つは、有望な治療標的タンパク質に対する薬を作ることが、現在の技術を用いても容易ではない点にあるとされる。

現在流通している薬の多くが分子量500未満の小分子化合物とされるが、その化合物の種類は膨大で、その中から薬となる化合物を見つける作業には多大な時間・コスト・労力をかける必要がある。そうした作業の簡略化に向け、標的となるタンパク質の立体構造をもとに、スーパーコンピュータ上で化合物がそのタンパク質に結合するか否かを調べる「ドッキングシミュレーション」による予測法も提案されているが、そのためには非常に多くの計算リソースが必要となるほか、シミュレーションの前提となるタンパク質の立体構造は、その多くがまだ解明されていないという課題もあるという。

こうした現状に対し、近年はAIを用いる創薬研究も進められているが、それらのほとんどはコンピュータシミュレーションのみの解析であり、実際に新しい薬を見つけ出したわけではなかったという。そこで研究チームは今回、さまざまな病気の治療薬を見つけ出すことができる汎用的なAIの開発と、実際の治療薬の発見を目的とした研究を進めることにしたという。

今回の研究でAIの訓練に用いられた「STITCHデータ」は、大規模な国際プロジェクトから得られたもので、100万以上の化合物-タンパク質ペアのデータとして知られている。今回の研究では、これらを数値ベクトルへと変換し、化合物とタンパク質の数値ベクトルを足し合わせ、最終的にその化合物が「どれくらい薬らしいか」を表す数値を得ることに成功。研究チームは、この手法に対し、「Lead Identification with GrapH-ensemble network for arbitrary Targets by Harnessing Only Underlying primary SEquence(略称:LIGHTHOUSE)」と命名したとする。

実際にLIGHTHOUSEの実力評価のために、がんの悪性化に関わる酵素「PPAT」を抑制する化合物の探索を実施。PPATをノックダウンさせると、さまざまながんの進行を食い止められることが知られているが、PPATの立体構造は未だ解明されておらず、その阻害剤も存在していないという中、PPAT阻害活性がある化合物を見つけることに成功。PPATはあらゆるがんの悪性化に関わっていることを考えると、この化合物は多くのがん患者に有効である可能性があると研究チームでは説明している。

さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療に有望な化合物の予測も行ったところ、すでに緑内障治療薬や利尿薬などとして日本国内で承認されている化合物「エトキシゾラミド」が見出されたという。研究チームでは、その有効性をヒト培養細胞を用いた感染実験にて調査を実施。その結果、実際に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染を抑え、従来株のみならず、デルタ株を含めたさまざまな変異株からも細胞を保護する働きがあることが確かめられたという。

研究チームでは、この成果を受け、エトキシゾラミドをSARS-CoV-2治療薬のリード化合物とし、その派生化合物を探索することで、より効能の高い治療薬の開発につながることが示唆されたとしている。また、LIGHTHOUSEは、アミノ酸配列さえあれば治療薬候補を見つけることができるため、さまざまな魅力的な治療標的タンパク質に対する創薬を加速させることが期待されるとしている。