あだち広報(東京都足立区)

2023年1月25日号

日本を代表する俳優の一人、仲代達矢(なかだいたつや)さん。足立区と同じ90歳にして、今なお現役で芝居と向き合う原動力はどこからくるのでしょうか。今年3月、足立区の「シアター1010」で行われる舞台『バリモア』の公演を前に、71年におよぶ俳優人生を振り返りながら、舞台に懸(か)ける想(おも)いを語っていただきました。

■「心配性」だから、準備は徹底的に
2022年の12月で90歳になりました。足立区も2022年に区制90周年を迎えたそうなので、私と同い年ですね(笑)。自分が90歳まで生きるとは思っていなかったし、ましてや現役で役者を続けていられるなんて思ってもいませんでしたよ。私は心配性だから、しょっちゅう医者に行くんです。そのおかげで、大病もせずにこの歳(とし)までやってこられたのかな。
役者としても心配性でね。いまだに「今度の舞台、大丈夫かな」なんて思うと眠れなくなる(笑)。セリフは大丈夫か、声はちゃんと出るか。常に心配だから、その分、事前の準備は徹底的にします。その繰り返しで、70年以上、役者としてなんとかやってこられたんじゃないかと思います。
子どものころは人前に出るのが苦手な引っ込み思案だったけど、「役を演じる」ことで、そんな自分を打破してきた人生だったのかもしれません。

■「もっとうまくなりたい」が原動力
私は1932年の生まれで、戦中戦後の物のない時代に育ちました。7歳のときに父を亡くしたこともあって家は貧しくて、高校を出てから色々な仕事をしました。あるとき、仕事仲間から「おまえ、顔がいいから役者にでもなれよ」と言われて、映画を観(み)るのは好きだったので、それもいいかなと思って俳優座付属養成所の門を叩(たた)いたのが19歳のときです。そこで芝居の基礎を叩きこまれて、映画の仕事をし始めました。そのころは日本映画の黄金期と呼ぶべき時代でした。黒澤明(くろさわあきら)監督、小林正樹(こばやしまさき)監督、成瀬巳喜男(なるせみきお)監督などの名監督、三船敏郎(みふねとしろう)さんや高峰秀子(たかみねひでこ)さんなどの名優と仕事をしながら芝居の技を身体(からだ)で覚えていきました。
役者というのは、脚本に書かれたセリフの本質を理解するという意味ではアーティストの面もありますが、最終的に自分の身体を使って表現するという意味ではアスリートのようなところがあります。ただ、アスリートであれば、30代から40代で現役を引退するんでしょうけど、役者は、その年齢に応じて演じられる役があるから、体と頭がしっかりしていれば続けられるんですね。
90歳で現役の役者を続ける原動力とは何か、と聞かれたら、「もっとうまくなりたい」という思いがあることでしょうか。一つの作品を終えると、「あそこはもっとこうすればよかったな」と思うことが、今でもしょっちゅうあります。「次はもっとこうしよう」と思うから、いまだに続けられているのかもしれません。

■「名優」にあぐらをかいている場合じゃない
舞台が自分の原点であり、役者としての軸だという思いは今も変わりません。足立区の「シアター1010」で3月に行う舞台『バリモア』は、81歳のときに初演した作品(上演時間約85分の一人芝居)です。かつてハリウッドで華々しく活躍した俳優ジョン・バリモアが、年老いて落ちぶれて、それでも再起を果たそうと舞台のリハーサルに挑む姿をどこか自虐的に描いた作品です。人生の光と影、そして再び光を求める生きざまを、観る方の人生とも重ねてご覧いただけるのではないかと思っています。

舞台に立つのは私一人。覚えるセリフ量が膨大で稽古(けいこ)も大変ですが、90歳になった今の自分がどう演じ切れるのか、あえて自分にプレッシャーをかけようと思ったんです。負けず嫌いなのかな(笑)。役者は年齢を重ねると「名優」扱いされますが、この歳になると若い人の何倍も努力をして精進しないと追いつけません。それを自覚したうえで、どこまでやれるのか。「名優」と言われることにあぐらをかいている場合じゃないんです(笑)。

■シアター1010は「あだちの宝」
私は全国の色々な劇場で芝居をしますが、ある程度の規模の劇場は音楽のコンサート用に造られた建物が多いんです。演劇に使う場合、声が響きすぎてしまって、お客さん一人ひとりに声を届かせるのに少し苦労する。私が名誉館長を務めている石川県の「能登演劇堂」は、全国でも数少ない演劇専用の劇場として設計されています。2022年に「左の腕」という舞台で使わせていただいた足立区の「シアター1010」も、(専用ではないものの)演劇のために造られたこともあって、とても素敵な劇場でした。実際に舞台に立って演じてみたら、声が広がり過ぎることもなくて、とてもやりやすかった。観客と演者の距離が近く、お客さんにしっかり声を届けるのに最適な広さです。

2022年3月には、この施設内のギャラリーで記念展(足立区制90周年記念プレイベント仲代達矢役者七十周年記念展1952から2021)も開催してもらいました。自分の過去を振り返るのはあまり好きじゃなかったんですが、70年の節目として、これまで関わった作品に関する資料や衣装などを展示してもらいました。ギャラリーや劇場という文化的な施設が駅のすぐそばにあるのは、大変素晴らしいなと思いましたね。足立区の宝ですよ。この劇場で、90歳になった私の『バリモア』を皆さんに観ていただけるのがとてもうれしくて、今からワクワクしています。終わったとき、「ああ、もう一本やりたい」と思うかもしれないので、「これが最後の舞台」とは言いたくないんですが、もしかすると、これが最後になるかもしれません。そのつもりで、全身全霊をかけて挑むつもりです。

[3月16日から23日 シアター1010で上演!]
バリモア
作:ウィリアム・ルース
翻訳・演出:丹野郁弓
出演:仲代達矢 赤羽秀之(声)
波乱万丈の人生を送ったアメリカのスター俳優ジョン・バリモア。アルコール依存症となり破滅しかけたなかで、再起をかけた舞台のリハーサルに挑むバリモアの姿を、仲代達矢が演じる。
料金:
・S席(1階)9,000円
・A席(2階)6,500円

問い合わせ先:シアター1010チケットセンター
【電話】03-5244-1011

■仲代達矢さんのサイン色紙を5人にプレゼント!
申込方法:区のホームページからオンライン申請・住所、氏名(フリガナ)、年齢、電話番号、本特集の感想をハガキで送付
※1人1回のみ申し込み可
申込期限:2月6日(月)必着

申込先・問い合わせ先:報道広報課 広報係
【住所】〒120-8510 中央本町1丁目17番1号
【電話】03-3880-5815
※当選者の発表は発送をもってかえさせていただきます。

問い合わせ先:広報係
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