広報おうめ(東京都青梅市)

令和5年3月15日号

■山田早苗著「癸卯春記行 上」
市文化財保護指導員 小島みどり

今から180年前の天保14(1843)癸卯(みずのとう)年3月11日、青梅森下町出身の山田早苗(本名黒田庄左衛門徳雅(しょうざえもんのりまさ))は当時暮らしていた江戸赤坂を出立し、板橋から川越を経て青梅、甲州、駿河への旅に出ました。「癸卯春記行 上」はその旅日記です。早苗は当時71歳で、老齢でしたが、心身共に健康で元気に歩くことができました。
早苗はまず石戸(いしど)の蒲桜(かばさくら)を見物に行きます。この桜は、江戸時代から滝沢馬琴(ばきん)の随筆にも書かれるほど有名で、名所として知られていました。蒲桜は、埼玉県北本市にある国指定天然記念物で、今も多くの人が見物に訪れます。旧暦3月11日は新暦の4月10日なので、ちょうど桜も見頃だったと思われます。
3月15日には青梅森下を訪れ、本家である山田屋黒田家に逗留します。青梅からは丹波・小菅を経て甲州から諏訪まで足を延ばします。その後、富士川を下り、身延から駿河へ、所々の名所を巡ります。駿府からは東海道を小田原へ行き、箱根を超えて4月6日に江戸へ戻ります。
早苗は道具商でしたが、文芸の道にも秀でており、狂歌師としても知られていました。そのため、文中には早苗が見た風景描写だけではなく、「甲斐名勝志(かいめいしょうし)」「東海道名所図会」「山家(さんか)集」など多くの書物からの引用文や和歌・俳諧等が書かれており、その場所の歴史や伝説などを詳しく知ることができます。青梅市郷土博物館では、今年が癸卯年であることから、上記の「癸卯春記行 上」と「癸卯秋記行 下」、「癸卯春秋記行 全」を展示しています。

問合せ:郷土博物館
【電話】0428-23-6859