海の向こうに見えるのは天草の島々。背後には雄大な平成新山がそびえる。長崎県南島原市西有家町の緑豊かな山あいにある廃校の校舎を活用し、フリースクール「ピカピカがっこう」を今年2月に開校した。
 スクールには10人の小中学生が在籍している。先生も子どもも愛称や名前で呼び合うのがルール。子どもたちは岩村さんを「岩ちゃん」と呼ぶ。「楽しむ」「やり切る」「応援し合う」が約束事だ。
 スクールは子どもの意欲を尊重し、自由に好きなことを学べる「キャリアサポート」を掲げる。学業だけでなく、高齢者施設で働いたり、祭りで商売を体験したり、地域の中で主体的に学ぶ。小中学校の元教諭ら多様なノウハウを持つ人たちがスクールの運営を支えている。
 福岡県生まれ。群馬県で幼少期を過ごした。東京学芸大を卒業後、県外の小中学校に計10年間勤務した。ある年、じっとしているのが苦手な多動症の児童と出会った。特別支援学級の担任として通常学級へ送り出す立場だった。粘り強く指導すると、児童は教室でおとなしく座れるようになった。
 ある日、その子が目の前で泣き出した。「ねえ、僕ってばかだよね。みんなと同じことができないから駄目だよね」
 その後、吐き気や目まいがひどくなって学校に行けなくなり、教員を辞めた。「自分のやってきたことと、起きた結果の矛盾に耐えられなくなり心が悲鳴を上げた」と振り返る。
 同じ時期に、長男が5歳児健診で適応障害になる可能性を示唆された。環境を変えようと、妻、長男と一緒に移住先を探す旅に出た。雄大な自然と人の温かさに引かれ、南島原市への移住を決意。2019年春、埼玉県から引っ越した。小学校の非常勤講師などを務めながらフリースクールの開校に向けて準備を進め、約5年を費やして実現した。
 スクールのリーダー格は中学生の「金ちゃん」(13)。「算数が得意だったけど、授業が退屈で思い切り騒いだら先生に叱られた。小学高学年で“退学”した」と苦笑いする。「でも商売は得意なんだ。地域の祭りのかき氷屋でもうけてさ。原価計算もきちんとできる」と声を弾ませた。
 それを聞いた「岩ちゃん」の目が輝いた。「商売に必要と感じたら自分で算数や数学を勉強するし、外国に行きたかったら語学を習得するでしょう」。自然の中で子どもたちと追い求めるのは、自ら成長しようとする力を重んじる理想の教育だ。