去年6月、岐阜市にある陸上自衛隊の射撃場で自衛官候補生の男が隊員に向けて発砲し、3人が死傷した事件で陸上自衛隊は事件の原因や再発防止策についての「報告書」を取りまとめました。

事件当時の様子(去年6月)

 18日午後、防衛省で行われた会見で森下泰臣陸上幕僚長は次のように述べました。

「訓練中の射撃による死傷事案は国家国民から信頼を受けて武器の使用を許可されている組織として決してあってはならないことであり、改めて陸上幕僚長としてこの事案を重く受け止め、この先、同種の事案を2度と起こすことがないよう、また、かけがえのない隊員の命を失うことがないように再発防止を徹底し射撃訓練を行う場合の安全確保を徹底してまいります」

 去年6月、岐阜市の日野基本射撃場で訓練中に隊員3人が小銃で撃たれ、2人が死亡、1人が重傷を負った事件。
 
 当時18歳で自衛官候補生だった渡辺直杜被告が強盗殺人などの罪で起訴されています。

「特異な行動を止めることができなかった」

森下陸上幕僚長

 事件の後、調査を続けてきた陸上自衛隊。

 報告書では「自衛官候補生の管理や指導は適切に行われていた」とした上で、原因についてこう総括しています。

「結果として武器を持つことの重要性の自覚と心構えが、当該新隊員に涵養(かんよう)されておらず、加えて射場勤務員も同じ部隊の仲間に向けて、発砲する自衛官候補生がいるという不測の事態を想定していなかったため、射撃訓練中に『銃を人に向け、引き金を引く』という当該新隊員の特異な行動を止めることができなかった」(陸上自衛隊の調査報告書)
 
 死傷した3人の隊員については渡辺被告を直接指導する関係ではなく「落ち度は認められない」としています。
 
 ではなぜ、渡辺被告は3人に向けて発砲したのか。

 18日の会見で森下幕僚長は「直接的な原因は我々も心情把握等を実施しているが公判に影響を及ぼすということなので回答を差し控えさせていただきたい」と留めました。

弾薬を渡す手順についても見直し

弾薬を渡す手順のイメージ

 再発防止策として、最初に挙げられているのは「教育の徹底」です。

「新隊員等に対する教育を徹底させることにより射撃訓練中に『銃を人に向け、引き金を引く』という意図を持たせない」(陸上自衛隊の調査報告書)
 
 新隊員と常に接し、服務指導を担当する自衛官2人とは別に「服務指導補助者」を複数名、配置するということです。

 さらに再発防止策の中では、射撃訓練中に弾薬を渡す手順についても見直すとしています。

 これまでの射撃訓練では銃の点検などを行うために設けられた「準備線」で弾薬を渡していましたが、現在は発砲する場所「射座」で弾薬を渡すなどして、銃と弾薬が同時に手元にある時間を極力短くするということです。

現場は今…

射撃場に掲示された「射撃休止」の張り紙

 3人が死傷した事件から10カ月あまり。現場となった射撃場には「射撃休止」と書かれた張り紙がされていて訓練は再開されていません。
 
 訓練の再開時期について、森下陸上幕僚長は「日野基本射場における射撃訓練につきましては服務教育等の徹底は当然のことですが、その上で射場の安全管理の必要な手順を確実に遵守して実施していく予定。具体的な射撃訓練の細部の実施時期は現在検討中であります」と述べました。