ジョー・バイデン氏の父親は中古車を販売していた。バイデン大統領は今でも、父親が結婚祝いにくれた緑色の1967年式コルベットを所有している。

 だがもしも、大統領がいま目指している通りに事が進んだとしたら、バイデン政権は米国におけるガソリン車の終焉が始まった時代と記憶されるかもしれない。

 バイデン氏は気候変動対策として、米国のエネルギーシステムの抜本的な改革を提案している。だが目標は、電力網のグリーン化や、石炭と天然ガスからの脱却だけではない。米国では交通が温室効果ガス排出量の4分の1以上を占めているが、自動車の数の現状を考えると、排出量の削減がいばらの道であることは明らかだ。そこでバイデン氏は、電気自動車(EV)の普及へかじを切るべく、様々な手を打とうとしている。

 すでにEVやハイブリッド車(HV)の人気は、ほぼすべての指標において上昇しつつある。しかし、化石燃料の使用によって世界の平均気温が毎年のように上昇し続けているにもかかわらず、ガソリン車からの脱却はいまだにわずかな規模にとどまっている。クリーンエネルギー車は、米国の自動車販売台数のわずか2%、中国では5%、ヨーロッパでは10%に過ぎない。これら世界最大級の市場でさえ、いまだにこの状況なのだ。

「この移行は決して、ひとりでに起こるものではありません」と、世界中の政策立案者と協働する米国の独立調査機関、国際クリーン交通委員会(ICCT)のニック・ラッツィー氏は言う。

 だが、規制や消費者へのインセンティブ、研究支援を適切に組み合わせれば、EVへの移行に拍車をかけることは可能だと、アナリストや環境保護論者、その他の専門家たちは口をそろえる。また、バイデン大統領が今のところ正しい方向に向かおうとしているようだという点で、専門家の意見は一致している。

「ダムは壊れつつあります。転換点に来ているのです」とサム・リケッツ氏は話す。氏はワシントン州のジェイ・インスレー知事が大統領選に出馬した際、気候変動対策計画を作成したチームの一員だった。インスレー知事のアイデアの多くは、その後バイデン大統領の計画にも取り入れられた。「問題は、自動車産業がどれだけの速さで変化できるかということです」とリケッツ氏は言う。「また、それが気候危機への対策として十分な速さなのかという点です」

 その成否は、次に米政府内で何が起こるか、そしてバイデン大統領およびごく僅差で議会多数派となっている民主党が、事をうまく進められるかにかかっている。

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