米国の動物園で、大型類人猿が初めて新型コロナウイルスのワクチン接種を受けた。

 米サンディエゴ動物園ワイルドライフ・アライアンスで保全、野生動物衛生の最高責任者を務めるナディーヌ・ランバースキー氏によれば、2月、サンディエゴ動物園に暮らす4頭のオランウータンと5頭のボノボが、動物用医薬品企業が開発したワクチンの試験投与を2度受けたという。

「これは普通のことではありません。これほど早い段階で試験用のワクチンを手にしたことはありませんし、こんなに使いたいという衝動に駆られたこともありませんでした」とランバースキー氏は話す。

 きっかけは、サンディエゴ動物園サファリパークに暮らすゴリラたちが1月、大型類人猿で初めて新型コロナウイルスに感染したこと。8頭の群れを率いる49歳のウィンストンが心臓病と肺炎にかかったが、試験的な抗体治療を経て、残りの感染個体と同様、回復に向かっている。

 世界的にはトラ、ライオン、ミンク、ユキヒョウ、ピューマ、フェレット、イヌ、イエネコの感染も確認されているが、科学者たちは特に、大型類人猿が新型コロナウイルスに感染しやすいという事実に懸念を抱いている。野生のゴリラの生息数は5000頭を下回っており、家族でグループを形成するため、1頭でも感染すると瞬く間に広がり、ただでさえ不安定な群れを危険にさらす恐れがある。

 パンデミックの発生から1年以上が経過しても、新型コロナウイルスが動物に及ぼす影響はいまだほとんど解明されていない。多くの場合、獣医師たちは限られたデータに頼り、個々の症例やわずかな種での散発的な集団発生から情報を得るしかない。

 2020年2月に香港でイヌの感染が初めて確認された後、動物用医薬品企業のゾエティスはイヌ、ネコ用ワクチンの開発に着手した。そして10月までに、イヌとネコの両方に安全で効果的だと確信した。1月にゴリラの群れが感染したとき、ランバースキー氏はすでにこのワクチンについて問い合わせていた。

 ワクチンはイヌとネコでしかテストされていなかったものの、リスクを取る価値はあるとランバースキー氏は判断した。ランバースキー氏のチームはサファリパークと動物園を合わせて、ゴリラ14頭、ボノボ8頭、オランウータン4頭を担当している。すべて新型コロナウイルスに感染しやすい大型類人猿であり、感染リスクがさらに高まる屋内の居住区でかなりの時間を過ごしている。そして2月、サンディエゴ動物園の大型類人猿9頭は米国で初めて新型コロナウイルスのワクチン接種を受けたヒト以外の霊長類となった。

 ランバースキー氏によれば、9頭は副反応もなく元気だという。オランウータン1頭とボノボ1頭から血液を採取しており、抗体がつくられたかどうかが近々わかる予定だ。抗体の存在はワクチンが効いているという指標になる。

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