イヌやネコ用で大丈夫?

 ワクチンが類人猿に効くかどうかは誰にもわからず、異常な免疫反応が出ないとも断言できなかった。どの種でもどのワクチンでも常にいくらかのリスクは存在するが、「やみくもにワクチンを接種しているわけではありません。接種することのリスクは何か、しないことのリスクは何かと、いろいろ考えて調べています。私たちのモットーは、何より害を与えないことです」とランバースキー氏は説明する。

 ランバースキー氏もゾエティスのマヘシュ・クマール氏も、1つの種のために開発、テストされたワクチンを別の種に使うことはいたって普通だと口をそろえる。ワクチンは特定の種ではなく特定の病原体を対象につくられているためだ。「私たちは普段から、イヌやネコのために開発されたワクチンをライオンやトラに接種しています」とランバースキー氏は話す。

 クマール氏によれば、この試験段階のワクチンは、臨床試験の後期に入っている米バイオ医薬品企業ノババックス社の新型コロナウイルスワクチンと同様の働きをする。生きたウイルスの代わりに合成されたスパイクタンパク質を使い、同じ抗体を誘発する仕組みだ。

 ゾエティスのデータによれば、イヌとネコの臨床試験では、すべての個体がワクチンに対して有意な免疫反応を示した。ただし、感染を防ぐのに十分かどうかはまだわかっていない。さらなる研究が必要だとクマール氏は述べている。

ゴリラたちは回復中

 動物園では今後、推奨されているように感染後60〜90日の期間を待ってから、サファリパークのゴリラにもワクチン接種を行う予定だ。その後、大型ネコ科動物でも検討したいとランバースキー氏は話している。

 サファリパークでは職員の陽性が確認されており、ゴリラたちはその職員から感染したのではないかとランバースキー氏は考えている。群れの全員が症状を示し、その度合いは軽症(鼻水、散発的なせきなど)から憂慮すべきもの(持続的なせき、食欲減退、不活発など)まで幅があった。

 群れのリーダーであるウィンストンは肺炎と重度の不整脈を伴う心臓病を発症したが、新型コロナウイルスが基礎疾患を悪化させたのか(心臓病は高齢のゴリラに多い病気)、ウイルスが症状を引き起こしたのかは不明だ。いずれにせよ、ランバースキー氏は心配した。「彼は群れをまとめる存在です。もし彼を失ったら、その影響は計り知れません」

 ウィンストンはモノクローナル抗体治療を受けた後、回復に向かっているが、治療がどの程度効いているかはやはり不明だ。「動物園の獣医学の世界にようこそ!」とランバースキー氏は言う。「これが私たちの毎日です。私たちは動物を助けることができたのか、ただ動物の具合がよくなっただけなのか、本当にわからないのです」