2018年2月から3月にかけて、ヨーロッパは歴史的な大寒波と豪雪、いわゆる「東の猛獣(Beast from the East)」に見舞われた。南はローマまで雪が降り、英国では猛吹雪で高さ約8mもの雪溜まりができたほどだった。

 最新の研究により、この豪雪には、ノルウェーとロシアに囲まれた北極海の一部であるバレンツ海の海氷の減少が関係していたことが明らかになった。降雪量の88%に相当する1400億トンもの雪が、その年に海氷が異常に少なかったバレンツ海から蒸発した海水に由来した可能性があるという。論文は4月1日付けで地球科学の専門誌「Nature Geoscience」に発表された。

 ヨーロッパの寒波の原因としては、上空1万メートル前後で吹く強い西風であるジェット気流の蛇行がマスコミに取り上げられることが多い。だが、同位体マッチング、衛星データ、モデルなどを使う新たな手法による今回の研究は、北極海の海氷の減少が、はるか南の天気に影響を及ぼしうることを示している。

 研究者らはまた、冬のバレンツ海の海氷がずっと減り続ければ、大気中の水蒸気量が増加するため、ヨーロッパ北部で極端な大雪が降る回数は増えるだろうと主張する。たとえ、気候変動によって年間の平均降雪量が減少したとしてもだ。

「冬の気温が高くなってきているのに降雪量が増えるのはおかしいと思われるかもしれません」と、論文の筆頭著者であるフィンランド、オウル大学のハンナ・ベイリー氏は言う。「けれども自然は複雑であり、北極で起きたことの影響が北極だけにとどまることはないのです」

北極ならではの難しさ

 冬の海氷が減少すると降雪量が増加する、という考え方自体は新しいものではない。湖や海を覆う氷は、その下にある水が大気中に蒸発するのを防ぐ蓋のような役割を果たしている。これまでの研究により、北米の五大湖での冬の湖氷の減少が降雪量の増加と関連づけられている。

 また、北極海の海氷の減少と蒸発量の増加、(特にシベリア沿岸の)降雪量という3つの要素の関連を調べるモデル研究も行われている。その一方で、北極地方でサンプルを採取する現実的な難しさから、3つの要素の直接的な結びつきを解明する研究はほとんど行われてこなかった。

 しかし、バレンツ海はこのような関連性を探るには理想的な場所だ。ここは冬の海氷減少のホットスポットで、3月の最大海氷面積は1979年からほぼ半減している。そして「東の猛獣」は、バレンツ海の氷の減少がより南の地域への降雪を増やすのではないかという仮説を検証するのにうってつけの事例だった。

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