西暦200年頃、現在のデンマークのどこかで、地位の高いゲルマン人戦士が討ち死にした。戦いが終わると勝利者は、2万個近い小さな鉄の輪をつないだ貴重な鎖かたびらをその戦士から剥ぎ取った。そして、勝利に感謝して、神への生け贄として沼に投げ込んだ。

「ヴィーモーセ・コート」と呼ばれる重さ約10キロのこの鎖かたびらは、19世紀後半、デンマークのヴィーモーセ近郊で考古学者によって発見された。沼の中が低酸素だったおかげで、保存状態はほぼ完ぺきだ。

 投げ入れられてから1800年以上が経過した鎖かたびらは、当時どのように着用されていたのか。そして、持ち主の体をどのように覆っていたのか。研究者たちは、ビデオゲームで培われた技術を用いることにより、実際に鎧を着用することなく、こうした謎を解き明かした。この研究の最終報告は、3月31日付けで学術誌「Journal of Cultural Heritage」に掲載された。

 通常の衣服を研究するのであれば、比較的、苦労は少ない。生地の伸び方、折りたたまれ方、垂れ下がり方はよく知られている。「生地の場合、伸縮性があり、柔らかく、それほど重くありません。重力に対する反応の仕方も一定しています」。今回の研究の共著者で、ロシアのサンクトペテルブルク国立産業技術デザイン大学のコンピューター科学者であるアレクセイ・モスクビン氏はそう話す。

 しかし、鎖かたびらがどのように着用されていたかを復元することは、実に難しい。鎖かたびらは紀元前300年頃に登場し、ゲルマン民族からローマ軍団の兵士、スペインの征服者まで、あらゆる人々に何世紀にもわたって戦場で着用されてきた。それを構成する何千もの小さな金属製の輪は、それぞれが異なっている。1つの輪にかかる重力は、他の輪の並び方や動きに複雑に影響し合っている。鎖かたびらが机の上に平らに置かれた場合と、戦士の肩にかけられた場合とでは、ひだの付き方も異なるだろう。

 苦労の理由はそれだけではない。「このような古代の遺物を、私たちが着るわけにはいきません」と、オランダのアムステルダム自由大学の考古学者で、本研究の共著者であるマルティン・ビンホーフェン氏は言う。「もし、どのように動くのかをテストしたいのであれば、他の方法を考え出さなければならないのです」

 ゲーム業界で開発された最先端の技術を使って、モスクビン氏とビンホーフェン氏らはまさにそれをやってのけた。まず、デンマーク国立博物館の学芸員の許可を得て、ビンホーフェン氏が鎖かたびらをマネキンに着せ、実物がどのように見えるかを確認した。

 その後、エンジンと呼ばれるビデオゲーム用のコンピューター・コードを使って、ヴィーモーセ・コートの輪ひとつひとつの形状を決定し、バーチャルなマネキンにCG版の鎖かたびらを「吊るす」作業が行われた。最大の課題は、2万個近い輪がどのように相互作用するか、その物理的な仕組みの計算だった。「20個や100個であれば問題ありません。1万9000個となると、シミュレートするのは大変です」とモスクビン氏は言う。

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