かつて北極圏では雷がとても珍しかった。人生で一度も目にしたことがないという住民もいた。だが、その状況は変化しつつあり、影響は北極圏の外にまで及ぶ可能性が出てきている。

 4月5日付けで学術誌「Nature Climate Change」に発表された論文によると、北極圏の雷は21世紀末までに2倍になると予測している。別の研究は、北極圏の雷が過去10年間で3倍に増えたことを示唆しているが、これについては疑問視する研究者もいる。

 雷の増加は、気候変動の急速な進行を示すと同時に、将来を危惧させるものでもある。生態系の変化をもたらし、気候変動をさらに加速させる可能性があるからだ。

「これまでは(雷の)発生数が少なかったのですが、雷の増加は気候にとても大きな影響を与える可能性があります」と、今回の論文の筆頭著者である米カリフォルニア大学アーバイン校の研究者ヤン・チェン氏は語る。

雷が増え、森林火災が増える

 2002年、研究者らがカナダ北西部の北極圏に住む先住民の高齢者に聞き取り調査をしたところ、どの人も生涯でせいぜい数回しか雷雨を見た記憶がないと答えた。ある長老は、わずか5歳だった1930年代に一度だけ嵐を見たことがあると話した。

「フェアバンクスに来たばかりの頃は、雷雨を見るとびっくりしていました」と、北極圏における雷の増加を研究している米アラスカ大学フェアバンクス校の気象学者ウマ・バット氏は語る。氏はアラスカ州に住んで22年になる。

 2014年と2015年には、アラスカ州とカナダのノースウエスト準州で過去最大級の森林火災が複数発生し、広大な地域が燃えた。原因は落雷。北極圏で発生する火災の9割以上は落雷がきっかけだ。

 温暖化と乾燥にともなって植物が燃えやすくなっていることが要因の一つだが、両年の火災には別の要因があるのではないかと、オランダ、アムステルダム自由大学の気候科学者サンダー・フェラフェベーケ氏は考えた。つまり、火災の引き金となる雷の発生頻度も高まっているのではないかと予想したのだ。氏は今回の論文の共著者でもある。

「それらの年の雷のデータを調べてみると、偶然でないことがわかりました」とフェラフェベーケ氏は言う。「雷の増加は、ほぼ即座に火災の増加につながっています」

 氏らは2017年に発表した研究で、アラスカ州とノースウエスト準州で大きな被害がもたらされた2014年から2015年にかけて、記録的な数の落雷による発火があったことを明らかにした。

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