VVV-WIT-08は、2012年前半に97%も減光してほぼ見えなくなった。観測データは、この急激な減光が、可視光から赤外線までのすべての波長の光を一様に遮る不透明な物体によって引き起こされたことを示唆していた。

「非常に不可思議な現象です」と、今回の研究に参加していない米ペンシルベニア州立大学のジェイソン・ライト氏は語る。「恒星よりも大きく、完全に不透明な物体など、そんなにありませんから」

 その後、欧州宇宙機関(ESA)のガイア宇宙望遠鏡や、地上から重力レンズ現象を観測するOGLEプロジェクトによってVVV-WIT-08に関する情報が得られたが、観測データが増えるほど謎も深まった。この星の大きさや距離を正確に把握することは難しくなり、宇宙空間での動きも奇妙なものになっていった。銀河系から脱出できるほどの猛スピードで運動しているように見えたのだ。

「予想をはるかに超えています」とスミス氏は言う。「何かがおかしいのです。私たちの仮定がどこかで間違っているのです」

説明がつかない

 VVV-WIT-08の異様さに困惑したスミス氏らは、現象の説明を試みた。恒星の明るさの変化はよくあることだが、この星で見られたような極端な減光は起こらない。また、恒星の手前をたまたま別の天体(塵に包まれた恒星など)が横切ったことで光が遮られた可能性も否定された。

「暗い浮遊天体によって減光を説明しようとすると、こうした天体が大量に必要になります」とスミス氏は言う。「そうなると、同じような現象が、もっと近くでたくさん見られないとおかしいのです」

 ライト氏らは、VVV-WIT-08と重力的に結合した物体がこの星を覆い隠していた可能性が高いと考えている。そうだとすると、恒星のまわりを伴星が公転していて、伴星の周囲に渦巻く巨大な塵の円盤(デブリ円盤)が星を隠したという説明が一番しっくりくるという。このような恒星系の存在はすでに知られており、例えばぎょしゃ座イプシロン星という超巨星は、塵に包まれた巨大な伴星に27年ごとに一部を覆い隠されている。

 しかし、塵は波長の長い赤い光を透過させるので、VVV-WIT-08の観測結果とは一致しない。また、デブリ円盤の縁ははっきりしていないのがふつうである。この点についてライト氏は、土星の環にある狭い隙間は縁がはっきりしていると反論している。

 VVV-WIT-08のまわりにどんな天体があるのかもよくわかっていない。今回の研究チームは、主系列星や白色矮星のような高密度の星の死骸などいくつかの可能性を考えたが、そうした星のまわりに通常形成される円盤では今回の観測を十分に説明できない。

 もう1つの可能性は、高密度の暗いデブリの環に囲まれたブラックホールが公転しているというもので、天文学者は理論的にはそうした天体は存在するはずだと考えているが、実際に観測されたことはない。恒星のまわりを公転する伴星が星から塵を剥ぎ取っている可能性もあるが、これも今回の観測を完全には説明できない。

 しかしレベスク氏は、進化の途上にある巨星から放出された物質が軌道上に漂っている可能性はあり、今回のような観測結果にはならないにしても、恒星系の塵に注目するのは理にかなっていると言う。

「想定内と言ってよい現象です」と彼女は言う。「ただ、塵はこんなにきれいな形には見えないので、今回の観測結果が、塵の分布について、何か非常に変わったことを示唆しているのは間違いありません」

 そうなると、やはり地球外生命が造った巨大建造物が恒星の手前を横切ったのではないかと考えたくなるが、ライト氏はまだその仮説を真剣に検討する段階ではないと言う。

「現時点では時期尚早です」と彼は言う。「この恒星については、わからないことがたくさんありますから」