地味な外見の海綿の仲間は、植物が陸上に進出するずっと前から、数億年もの間、地球の水をろ過してきた。その単純な構造から、海綿は地球に誕生した最古の動物であると研究者たちは考えてきた。しかし、その具体的な誕生時期については意見が分かれている。

 7月28日付けで学術誌「ネイチャー」に発表された論文によると、古代の礁の網目状の微小構造物が、8億9000万年前の海綿である可能性があるという。これが確定すれば、カナダ北西部の「リトル・ダル」という石灰岩地帯で発見されたこの構造は、今までに確認された最古の動物化石より3億年以上古いことになる。

 しかしながら、非常に古い年代の化石に関する論文の多くは、議論を巻き起こすものだ。太古の海で繁栄した生物は、現代の海を泳ぐ生物とはまったく違う外見をしていたかもしれない。動物と他の生命体や地質構造とを識別できる証拠の量や種類については、研究者の間で意見が分かれている。リトル・ダルの構造も例外ではない。

「岩石にくねくねと線が描いてあり、それをどう解釈するかロールシャッハテストを受けているようなものです」。スイスのローザンヌ大学で初期の生命体を研究する古生物学者、ジョナサン・アントクリフ氏は、こう述べる。

 論文の単独の著者であり、カナダ、ローレンシャン大学で野外地質学を研究するエリザベス・ターナー氏は、オンラインのインタビューで、からし色の浴用スポンジ(海綿)を見せてくれた。論文で取り上げた海綿の現代の仲間だという。ターナー氏によれば、このスポンジを押しつぶすことができるのは、柔軟な管の網目状組織があるからで、この組織が、今回分析した構造や、最近、他の研究者たちが確認したもっと後期の複数の網目状の化石と「そっくり」だという。

気になる構造

 新たに特定された構造は、そびえたつリトル・ダルの礁の奥まった場所や割れ目に眠っていた。太古の昔、温かく浅い海水が広大な土地(現在の北米大陸)を覆い、その後、歳月と地殻変動を経て内海の水が干上がったために、この礁は岩石に変化した。現代の礁の多くはサンゴでできているが、この太古の礁を作ったのはシアノバクテリア(藍色細菌)だ。この微生物は、ぬるぬるした膜状に成長する。砂がその粘り気のある表面に付着し、海水のミネラル分が小さな綿毛状にまとわりつきながら、長い歳月をかけて層状の堆積物が形成されてゆく。

 この微生物層が化石化したものがストロマトライトだ。ストロマトライトには、35億年前のものも確認されており、地球上のあらゆる生命の確かな痕跡としては最古のものとされている。

 ターナー氏がリトル・ダルの調査を始めたのは、カナダ、クイーンズ大学の大学院生だった数十年前のことだ。当時、ターナー氏の関心の的は、シアノバクテリアが礁を形成する仕組みだったが、複雑な構造を持つ一連の奇妙なサンプルが注意を引いた。

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