米アラスカ州南西部沿岸にあるヌナレク遺跡の凍土には、ある運命の瞬間がそのままの姿で埋もれている。約400年前に、先住民ユピックが何者かに襲われたときの品々だ。

 考古学の世界ではよくあることだが、遠い過去の悲劇は現代の科学に恩恵をもたらす。ヌナレクでは、日常使いの食器から、木製の儀式用仮面、セイウチの牙でできた入れ墨用の針、精巧に作られた小舟の破片、カリブーの歯でできたベルトなど、10万点もの遺物が発見されている。その量や種類の多さもさることながら、1660年頃から地中で凍結していたため、保存状態は驚くほど良好だ。

 凍った大地のおかげで、草のロープ、サーモンベリーの種、草で編まれたかごなどの有機物まで残っている。「この草はシェイクスピアの時代に刈られたものですよ」と、英スコットランド、アバディーン大学の考古学者リック・クネヒト氏は語る。

遺物が伝える凄惨な過去

 ユピックの祖先は東シベリアとアジアからやって来たと考えられている。約1万年前にベーリング海を渡って北米にたどり着き、徐々にアラスカ西部の沿岸地域に移動して、紀元1400年頃にはユーコン川を含む沿岸の河川沿いを上り、内陸部に集落を形成するようになった。

 一帯は当時、現在のアラスカ州のような北の極寒の地ではなく、より温暖だった。水辺には食料が豊富だった。岸辺やカヤックから銛でサケを捕り、弓矢で哺乳類を狩る。季節ごとに野営地を移動し、さまざまな食料を手に入れた。寒い季節には、土で作った住居の中で過ごした。

 かつてそうした土の建造物があった場所の周辺で、クネヒト氏らは驚くべき発見をした。何世紀も前に住人をいぶり出すために使われた、火の痕跡を発見したのだ。おそらく大家族であろう50人ほどがここで暮らしていたようだが、誰も助からなかったと見える。

 脱出のためトンネルを掘ろうとして煙に巻かれた女性と見られる遺骨を考古学者たちは発掘した。また、複数の女性や子供、年長者が地面に顔を付けた状態で発見された。捕らえられて殺されたのだろう。

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