長崎県雲仙市が、日本初の「美食都市アワード」を受賞しました。この栄誉は、地域の食文化と魅力を融合させた都市に贈られるもので、雲仙市は九州から唯一、選出されました。この受賞で特に注目されのは、在来種の野菜を育てる農家、岩崎政利さんの存在です。「岩崎さんの野菜に注目してほしくて東京から移住した」という料理人もいるなど岩崎さんの有機栽培技術と志は、多くの生産者や料理人に影響を与え、雲仙市の美食文化を支えています。

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【住】長崎の暮らし経済ウイークリーオピニオン。平家達史NBC論説委員とお伝えします。

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【平】今回のテーマは「雲仙市が“美食都市”に」です。日本で初めて”美食”の観点から都市を表彰する「美食都市アワード」が創設され、第1回の受賞都市のひとつに長崎県雲仙市が選ばれたんです。(「美食都市研究会」と雑誌「料理王国」が創設)
【住】すごいですね!確かに雲仙市といえば、県を代表する農作物の産地というイメージがあります。

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【平】アワードの事務局が定義した美食都市とは『食文化と地域の魅力を融合させた特別な都市』のことを言います。

【住】雲仙市以外ではどこが選ばれたんでしょうか?

【平】今年度の受賞都市は5都市です。他は北海道帯広市、山形県鶴岡市、石川県金沢市、京都府京丹後市です。

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地域固有の文化と食の魅力を活かし、文化やビジネスを生み出し、観光客を惹きつけ『都市の価値を高めた』と評価されました。雲仙市は九州から唯一、選出されました。

受賞の背景には“ある農家の情熱”が

【住】雲仙市が特に評価されたポイントは何なのでしょうか?
【平】事務局によると、雲仙市について特に評価されたのは「良い野菜」を生産する土壌があって「良い料理」を提供する飲食店があるという点です。

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「良い野菜」というフレーズがありましたが、今回の受賞への流れは《あるひとりの農家》の存在が全ての起点となっています。

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一般に売られている野菜のほとんどは、改良された種を毎年、種苗会社から買って栽培されています。

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しかし長崎県雲仙市の農家、岩崎政利さんはこれらの種を使わず、有機栽培した作物から種を採り、その種をまた畑に植えて育てるという手法を取っています。こうして作られる野菜は”在来種”と呼ばれます。

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農家 岩崎政利さん:
「(在来種の栽培は)個性を知る上ではいいですね。その作物の性格を知っていくっていうか」
※岩崎さんの崎の正しい漢字は“﨑(たつさき)”

全国的に“大量生産に向いた品種”が多く作られ、各地の《在来種》は途絶える寸前のところまで来ていました。

在来種は種を守ってきた“ご褒美”

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岩崎さんは作物を根気よく育て、時間と手間をかけて種を採ります。岩崎さんが作る《在来種の野菜》のおいしさは全国的にも知れわたっており、多くの『生産者』や『料理人』に大きな影響を与えています。

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岩崎さん:
「自分が守ってきた種を自分がそこで終えると、その種は全部自然界から消えていく。守り続ける素晴らしさ、守り続ける延長に、その野菜がご褒美みたいにしてその風土や土地に馴染んで力を発揮してきた」

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野菜・素材にこだわると“岩崎さん”に行きつく

今回、岩崎さんが作る《野菜の美味しさ》はもとより、それを《提供する飲食店》岩崎さんの《志を継ぐ生産者》の存在が「美食都市アワード」選出の決め手になりました。

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雲仙市千々石町の農家、荒木政勝さん。岩崎さんらから刺激を受け、農薬を使わず化学肥料も使用しない有機野菜の栽培も行っています。

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農家 荒木政勝さん:
「いろいろ深掘りしていくと、地域には岩崎さんだったり、近くに(他の方)もいらっしゃいますので」

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荒木さんは『グラウンドペチカ』という瑞穂町が発祥のジャガイモを有機栽培で育てています。10年ほどずっと同じ種で作れていると言います。

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荒木さん:
「この土地を守ったりであるとか、実際に有機をやり始めてみると、いろんな物語(ストーリー)も出てくる。常に日ごろから野菜と向き合ってみると、すごく楽しくなった」

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岩崎さんの野菜作りは農家以外にも影響を与えています。在来種を中心に、地元で採れた野菜を販売する直売所「タネト」を経営する奥津さんは、岩崎さんの野菜に惹かれて東京から移住してきました。

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直売所経営 奥津 爾さん:
「(岩崎さんの)畑を見て、ほんとに野菜の在り方とか生き方に感動してリスペクトして移住してきたという感じですね。野菜・素材をこだわろうと思ってずっと掘っていくと最終的に岩崎さんに行っちゃうんですよね」

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《守り継ぐ》という信念を持った農家の人々が、手間をかけて育て、収穫した野菜ばかりです。以前は地元で販売できる場所が限られていましたが、今ではこの「タネト」が流通の面で農家の人々を支えています。

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地元に住む2人組:
「美味しいです」
「楽しいです。ずっと味が違う。個体差あるし、季節差あるし」

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鹿児島でピザ店を営む男性:
「鹿児島から旅で野菜を知りたくてこの場所に(来た)。今、雲仙でどういうことが起こっているのかというのをこの目で確かめたくて」

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東京から移住してきた和食料理人:
「3年前に移住して2年前に店が出来たんですけど、ここの野菜の生命力とエネルギーがすごいんで」

“まさに宝物” 料理人「美味しいの上の感動」

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【平】生産者と販売所に加え、伝統野菜を提供する料理店の存在もあります。《生産者の想い》や《伝統野菜そのものの味》を大切にしています。

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雲仙の温泉街。地元産の有機野菜などを使った料理を提供する「雲仙福田屋」

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ここでは素材の特徴を最大限に引き出した天ぷらが提供されています。

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雲仙福田屋 草野玲 総料理長:
「岩崎さんが作られている在来種のお野菜を中心にお客さんにお出しするような形ですね。《美味しいの上の感動》を引き起こしてくれる味というかですね」

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岩崎さんが育てた黒田五寸人参は1本を丸ごと、低温で、40分もの時間をかけてじっくりと揚げます。

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草野 総料理長:
「天ぷらの衣で包み込んで香りを閉じ込める形ですね。本当、宝物を扱ってるような感じですね。よく“食材探し”じゃなくて“宝探し”って言ってるんですけど、本当に(島原)半島には宝物がいっぱいありますね」

「岩崎さんの野菜に注目して欲しくて移住した」料理人も

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小浜の温泉街にある「ビアード」というレストランには生命力に満ちた“宝物”に魅了され、東京から移住してきたシェフがいます。

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ビアード 原川慎一郎さん:
「これが葉ごぼうというごぼうですね」

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「じゃがいもを温泉水でくたくたにしたものですね」

「その素材を活かすこと。あまり自分のエゴは出さずに」

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岩崎さんが育てる野菜に出会い2021年に小浜に店を開きました。

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原川さん:
「種を取ってその地に根差したお野菜というのは、その土地でずっと暮らしているので味も味わい深いですし」

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納得できる素材をふんだんに使える環境に身を置く原川さん。今回の「美食都市アワード」の受賞には特別な思いがあります。

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原川さん:
「岩崎さんのお野菜──在来種のお野菜、それを注目してほしいという思いで移住してきたので、その評価をいただけたというのは願っていた事なのですごく嬉しいですね」

“フードツーリズム”長崎県のポテンシャルは高い

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【住】プロの料理人に“宝物”と言わしめた岩崎さんの野菜、素晴らしいですよね。今回取り上げた雲仙市はもちろん、長崎県は食材の宝庫です。それをどう発信するのかはとても重要ですね。
【平】そうですね。やはり「食」というものは観光体験の中では中心になるものですし、観光客をひきつける最大のものとも言えます。食文化を都市の戦略に取り込むことで何か新しいビジネスが生み出される可能性もあります。

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世界に向けて地方都市が存在感を発揮するために「食」の重要性はますます高まっていると言えます。地域ならではの食・食文化を楽しむことを目的とした旅のことを「フードツーリズム」といいますが、長崎はフードツーリズムの聖地になっても良いと思います。

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ただ、多くの方々にこの良さを体験していただくためには、アクセスの改善は必要であり、これは雲仙市に限らず、長崎全体の課題だと思います。この点も改善していけば、長崎が「フードツーリズム」の聖地になるポテンシャルは十分にあると思います。

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23日、直売所のタネトでは美食都市アワード受賞式が行われます。岩崎さんを中心とした全体のストーリーのメモリアルな瞬間になると思いますし、今後、長崎県内のほかの地域が「美食都市アワード」を受賞することを期待したいと思います。