“競馬の祭典”とも称される日本ダービーが今週末に迫る。東京競馬場には数万人が詰めかけ、大変な盛り上がりを見せるはずだ。そんな一日を無事に終えられるよう、競馬場の外から支える人びとがいる。新宿や渋谷といった都心から同競馬場をむすび、競馬ファンの足となる京王電鉄。鉄道マンたちはどのような思いでこの日を迎えようとしているか、府中競馬正門前駅の駅長である京王中央管区の金丸貴英管区長に話を聞いた。

「日本ダービーは、まさに一年で一番忙しい日というのに尽きます」と、引き締まった表情を見せた金丸管区長。入社は1984年で、今年40年目を迎えた大ベテランだ。昨年から京王電鉄京王線のつつじヶ丘駅から中河原駅間と京王競馬場線・府中競馬正門前駅を管理する京王中央管区の管区長を務めている。

 特に競馬ファンになじみ深い京王競馬場線は、京王線の東府中駅から府中競馬正門前駅にいたる総延長0.9km。普段は2両のワンマン電車が20分ごとに行き来するローカル線だが、競馬開催日になると様相が一変。開催日には来場者のおよそ25%が利用し、にぎわいを見せる。

 金丸管区長と府中競馬正門前駅との関わりは入社当初から。シンボリルドルフがダービー馬に輝いた84年ごろ、駅係員の一人として管区長自身も当時の「競馬熱」を感じていた。

「日本ダービーの朝は競馬場の連絡通路から改札前まで入場待ちのお客様がいて、いったい何人が帰っていくのか、恐ろしさも覚えました。またお客様が一斉にお帰りになると、“圧”でどんどん後ずさりして、気づけば改札から乗り場の方まで押されていたこともありましたね」

 さらに時代を感じさせるエピソードも。「競馬開催時には硬券(※厚紙で出来た切符)を数名で手売りしていて、切符にハサミを入れていました。1枚なら切れるんですが、数人分をまとめてお渡しになるお客様もいて、数枚を無理やり切ると、手に血豆が出来たりして大変でした」。今のようにICカードなどなく、多くのファンが訪れるGI開催日ともなれば、まさに一大事だったようだ。

 当時ほどの入場者数ではないものの、昨年の日本ダービーでは7万人が来場。今年も京王電鉄では、安全にファンを送り届けるため、万全の体制で臨む。府中競馬正門前駅から東府中駅間は通常の倍となる10分ごとにまで増発し、レース終了後にはさらに運行間隔を短縮。東府中駅には上り特急列車を臨時停車させて接続を図るほか、16時台から17時台にかけて新宿方面に直通する急行、特急も4本運行する。さらに列車増発以外にも普段は1名の府中競馬正門前駅の駅員は、東府中駅と合わせて計10人まで増員。同駅の警備員も増やしてスムーズな案内を目指す。

 また今年の日本ダービー当日の5月26日(日)は近隣で大規模イベントがあり、同社にとっても例年以上に“大一番”の様相。東府中駅の東隣にあたる多磨霊園駅からバスでアクセスするボートレース多摩川では、SGのボートレースオールスターが開催。さらに多磨霊園駅から2駅隣の飛田給駅が最寄りとなる味の素スタジアムでは、Jリーグの試合が行われる。それぞれも数万人が来場する見込みとあって、金丸管区長も「緊張しています。今年は特に気を付けて、対応しないといけないですね」と気合いを入れる。

「競馬ファンの方も特別な思いで来られると思いますし、我々も忙しいというのは頭にありますが、利用者が多い中でも、安全が一番大事ですので」と、同社にとっての日本ダービーへの思いを語った金丸管区長。支える人たちにとっては、大一番であっても、“普段通り”であるように。ダービーデーがつつがなく終わるよう、京王電鉄は安心・安全の二文字を胸にその日を迎える。