開幕が迫る、神戸市で開催の世界パラ陸上。世界トップのアスリートたちの活躍を日本で観戦できるこの大会の、見どころ・注目選手をご紹介—

中西麻耶(2023年第34回日本パラ陸上選手権大会で撮影)

中西麻耶(2023年第34回日本パラ陸上選手権大会で撮影)

東アジアで初開催、104の国・地域からトップアスリートが集結

パラ陸上競技の世界最高峰の戦い「神戸2024世界パラ陸上競技選手権大会」が5月17日、兵庫県神戸市の神戸総合運動公園ユニバー記念競技場で開幕する。当初は2021年に開催予定で、新型コロナウイルス感染拡大の影響で2度にわたる延期を経て、ついに実施される。パラ陸上の世界選手権が開かれるのは東アジアで初、パラリンピックと同年に開かれるのも初となる。104カ国・地域から選手1,073人が参加予定で、日本選手団は過去最高の66人がエントリーしている。

パリ2024パラリンピックの代表選考会を兼ねる重要な位置づけとなる今大会。25日までの9日間で実施する168種目のうち、パラリンピック種目において2位以上の成績をおさめれば、パリ大会の「出場枠」が所属する国に与えられる。今夏の開催に迫った本大会の前哨戦で繰り広げられるアスリートの躍動に、ぜひ注目してみよう。

大島健吾(左)、井谷俊介(2023年第34回日本パラ陸上選手権大会で撮影)

大島健吾(左)、井谷俊介(2023年第34回日本パラ陸上選手権大会で撮影)

100mだけで33人のメダリスト!? パラ陸上ならではのクラス分けと用具

一般の陸上競技と同様に、主にトラック競技とフィールド競技に分かれている。パラ陸上では車いす、義足、視覚障害などさまざまな障害がある選手が参加する。公平を期すために障害の種類や程度に応じてクラス分けをし、そのクラスごとに競技を行い、順位を決める。たとえば、今大会は「100m」だけで男女合わせて33種目が実施され、クラスが異なる33人の金メダリストが誕生することになる。

それぞれの障害や競技の特性に合わせて使用する用具を工夫しているのも、パラ陸上ならではの特徴だ。たとえば、切断などの選手は競技用の義手や義足を使用し、日常で車いすを使用する選手はレーサーと呼ばれる競技用車いすに乗ってレースに臨む。それぞれ軽く丈夫な最先端素材で作られており、日々進化する用具を使いこなすアスリートの高い技術やパフォーマンスは見どころのひとつだ。

マルクス・レーム(2018年ジャパンパラ競技大会で撮影)

マルクス・レーム(2018年ジャパンパラ競技大会で撮影)

東京パラ&前回大会の金メダリストもエントリー

今大会には、東京2020パラリンピック(以下、東京2020大会)や前回フランス大会のメダリストも参戦する。

片下腿義足T64の男子走幅跳でパラリンピック3連覇を達成したマルクス・レーム(ドイツ)は、パラ陸上界の「顔」のひとり。自身が持つ世界記録は、東京オリンピックの金メダルの記録(8m41)を大きく超える「8m72」。22日の試合で、さらに塗り替えることができるか。視覚障害T12の女子100m、200m、400mの世界記録保持者で、東京2020大会3冠のオマラ・ドゥランドエリアス(キューバ)の走りもお見逃しなく。

佐藤友祈(2023年第2回NAGASEカップ陸上競技大会で撮影)

佐藤友祈(2023年第2回NAGASEカップ陸上競技大会で撮影)

日本勢では、車いすT52の佐藤友祈(モリサワ)が男子100、400mに加えて、前回大会で3連覇を達成した非パラ種目の男子1500mにもエントリーする。また、前回大会の視覚障害T13の男子400mで金、走幅跳で銀と、鮮烈な世界選手権デビューを果たした福永凌太(日体大)は、今大会は男子400mに専念。自身が持つ47.79のアジア記録の更新と表彰台を狙う。

福永凌太(2023年第34回日本パラ陸上選手権大会で撮影)

福永凌太(2023年第34回日本パラ陸上選手権大会で撮影)

さらに、異なる障害の男女4人の選手がタッチで次の走者につなぐパラ陸上オリジナル種目のユニバーサルリレーでは、日本チームに連覇の期待がかかる。

唐澤剣也(左から2人目)、和田伸也(右から2人目)(2022年第33回日本パラ陸上選手権大会で撮影)

唐澤剣也(左から2人目)、和田伸也(右から2人目)(2022年第33回日本パラ陸上選手権大会で撮影)

勝つのはどっち!? 日本人のライバル対決に刮目せよ

今大会は、日本人選手同士のライバル対決にも注目が集まる。大会初日に行われる視覚障害T11の男子5000mは、東京2020大会銀メダルの唐澤剣也(SUBARU)と、銅メダルの和田伸也(長瀬産業)が挑む。切磋琢磨して走りを磨いてきた両者。唐澤は前回大会を制しており、どんな展開でレースをけん引するか。20日には、男子1500mも行われる。

男子100mの上肢障害クラスはT45/ T46/T47のコンバインド(混合)で実施される。T47の石田駆(トヨタ自動車)は前回大会の6位を上回る成績を残せるか。T45のアジア記録保持者の三本木優也(NTT東日本)もスタートからの加速を武器に上位進出を目指す。

男子短距離の片下腿義足T64は、大島健吾(名古屋学院大AC)が100mのアジア記録、井谷俊介(SMBC日興証券)が200mのアジア記録を保持する。国内ではワンツーフィニッシュで成績を分け合うことが多い義足スプリンターのライバル対決から目が離せない。

男子1500mは、知的障害T20のハイレベルな戦いに注目。今季世界ランキング3位に十川裕次(オムロン太陽)、同4位に岩田悠希(KPMG)、同5位に赤井大樹(ワークマン)がつけており、熾烈な表彰台争いが繰り広げられそうだ。

鈴木朋樹(2023年第34回日本パラ陸上選手権大会で撮影)

鈴木朋樹(2023年第34回日本パラ陸上選手権大会で撮影)

車いすT54の長距離は、18日の男子5000mに日本記録保持者の樋口政幸(プーマジャパン)、吉田竜太(SUS)が登場。また、22日の男子1500mに樋口のほか、マラソンでも実績を残す鈴木朋樹(トヨタ自動車)、今季世界ランキング8位につける岸澤宏樹(日立ソリューソンズ)が出場する。空気抵抗軽減のために前をいく選手のうしろにピタリとつけたり、先頭をローテーションしながら勝負どころで仕掛けたりと、レースの駆け引きも見どころだ。

村岡桃佳(2023年第2回WPA公認NAGASEカップ陸上競技大会で撮影)

村岡桃佳(2023年第2回WPA公認NAGASEカップ陸上競技大会で撮影)

夏冬二刀流・村岡、砲丸投げの元世界女王・齋藤ら、女子注目選手がずらり

女子では、アルペンスキー金メダリストの二刀流・村岡桃佳(トヨタ自動車)に注目。昨年7月の世界選手権後はアジアパラ競技大会への出場を見送り、集中的にウエイトトレーニングに取り組んだ。今大会は、車いすT54の女子100mと800mでパラリンピック出場枠獲得を目指す。

酒井園実(2023年第34回日本パラ陸上選手権大会で撮影)

酒井園実(2023年第34回日本パラ陸上選手権大会で撮影)

女子走幅跳は各クラスで日本勢の活躍が期待される。初日に登場する知的障害T20の酒井園実(ISFnet)は、前回大会でアジア新記録となる5m44を跳び、4位に入った。今大会は自己ベスト更新とメダル獲得を狙う。20日は、片下腿義足T64の前回大会銅メダリストの中西麻耶(鶴学園クラブ)が、23日には片大腿義足T63の前回大会4位の兎澤朋美(富士通)が大ジャンプに挑む。

齋藤由希子(2023年第34回日本パラ陸上選手権大会で撮影)

齋藤由希子(2023年第34回日本パラ陸上選手権大会で撮影)

22日は女子砲丸投げに注目したい。上肢障害F46で前回大会銅メダルの齋藤由希子(SMBC日興証券)が登場する。2015年にマークした12m47は、昨年に海外選手に抜かれるまで長らく世界記録だった。女子のF46のパラリンピック実施種目は2012年大会からやり投げのみで、東京2020大会でも砲丸投げは実施されなかったため、一時はやり投げに専念していた齋藤。しかし、パリ大会で砲丸投げが復活することになり、前回大会3位の齋藤は金メダル候補のひとりに名を連ねる。今大会は、その足がかりとなるようなビッグスローに期待したい。

文・荒木美晴
写真・植原義晴