ジャーナリストの須田慎一郎が10月3日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。一方的にプーチン大統領が署名したウクライナ4州「併合条約」について解説した。

モスクワで「大祖国戦争勝利76周年記念」軍事パレード=2021(令和3)年5月10日 新華社/共同通信イメージズ 写真提供:共同通信社

プーチン大統領がウクライナ4州の「併合条約」だとする文書に署名

ロシアのプーチン大統領は9月30日、ウクライナ東部や南部4つの州について、ロシアが併合すると定めた「併合条約」だとする文書に署名した。一方的な併合を宣言したことで、国際社会からの非難はいっそう強まっている。

飯田)東部のドネツク州とルハンシク州、南東部ザポリージャ州、南部ヘルソン州の4州だということです。住民投票とされるものから1週間あまりで、動きが早まっています。

須田)一連の特別軍事作戦に対する成果を出さなくてはならないということで、当初の目標に定めていた「ウクライナのネオナチ勢力によって、人権が侵害されているロシア住民の奪還」を目指したというところに帰結させる。その節目をつくったのではないでしょうか。

大きな転換点は予備役の動員に踏み切ったこと

須田)とても強引であり、手続きも拙速過ぎると思います。大きな転換点になったのは、予備役に対して一部招集令を出し、30万人を確保するということです。

飯田)転換点になったのは。

須田)戦闘地域における地上部隊、兵員があまりにも不足しているため、動員せざるを得ないだろうと。ですが、国内世論の反応を考えると相当ハードルが高いため、プーチン大統領は躊躇してきたわけです。

飯田)そうですよね。

ロシアの強硬派を抑えきれなくなったか 〜権力基盤が揺らいでいる可能性も

須田)しかし、踏み切らざるを得なくなってきた。もちろん兵員が足りないこともあるでしょうが、もう1つは国内、あるいはロシア軍の強硬派を抑えられなくなってきたということです。

飯田)強硬派を抑えられない。

須田)権力基盤がかなり揺らいでいるのではないでしょうか。なおかつ、一部の予備役に対する招集をかけましたが、その際、軍服は供給するけれど、寝袋や防寒具、医薬品の類はすべて自分達で用意しろと、そのようなことを説明の際に迫っている動画が流れてしまったのです。それを考えると、本当に戦える状況になっているのかどうか。言われた方としては、自分達は捨て駒にされてしまうのではないかと……。

飯田)そう思いますよね。

東ドイツが崩壊する前夜を見ているような現在のロシア

須田)その一方で、国境を越えて国外へ脱出する人が増えている。

飯田)新聞には「ロシアから20万人が国外脱出」という見出しも出ています。

須田)一説によると30万人とも言われていますが、このシーンは既視感があります。ベルリンの壁崩壊です。あのときもベルリンの壁を越えて、西ドイツサイドに脱出することが容認されていたわけではないのです。それを押し留めるだけの警備が取れなかった。だからなし崩し的に流出していき、結果的に東西ドイツが統合されていき、東ドイツが崩壊していった。あの前夜を見ているような感じがしてなりません。

飯田)あのときも、ハンガリーなどを経由してオーストリアに逃げるというような大きな流れがありました。人が動くということは、政治が動くということになっていくのでしょうか?

須田)逃げない人は、年老いた親がいたり、あるいは経済的な事情を持つ人たちでした。ロシアでも反戦・厭戦ムードが高まっていくのではないかと思います。その火消しをするために、今回の併合条約に署名したのであれば、プーチン大統領は自分の首を絞めている状況だと思います。

ロシア・モスクワ州の招集事務所近くで、動員を受けて家族に別れを告げる男性(右) 2022年9月26日(タス=共同) 写真提供:共同通信社

ロシア、ウクライナの双方にとって「核使用」のハードルはさほど高くない 〜チョルノービリの経験からそれほど危機感がない

飯田)そこで取り沙汰されるのが、核兵器を使用するのではないかという懸念です。 “エゾタ”さんのツイッターのコメントを紹介します。「他国の介入を防ぐためではなく、ウクライナの反攻作戦を止めるために核の使用をちらつかせるなど、ロシアも落ちるところまで落ちた感」といただきました。欧米はこの脅しに対してどう対処したらいいでしょうか?

須田)ウクライナの人と話をして驚いたのですが、我々にしてみれば戦略ではなく、戦術核兵器であったとしても、第三次世界大戦の引き金になるのではないかと。だから、使用に関してハードルが高いはずだと考えますよね。

飯田)そうですね。

須田)ところが、チョルノービリ原発事故を経験している彼らにとって、戦術核兵器の使用、もしくは使用されることに対して、さほど強い危機感がないそうです。だから「簡単に使ってくるのではないか」と言うのです。

飯田)ロシアが。

須田)ロシアが。しかし、それによってウクライナサイドが恐怖に慄くことにはならないのではないかと。

飯田)そうなのですか。

須田)甚大な被害は受けるにしても、ウクライナの軍事基地すべてを壊滅するためには、相当な数の戦術核を撃たなくてはならない。果たしてそれができるのかどうか。ロシア国内でも、それを疑問視する声が軍事関係者の間で出ています。本当に撃てるのか、撃てないのか。

飯田)ロシア国内でも。

須田)1発や2発ならいいですよ。しかし、戦況を大きく左右するような戦術核の使用が、本当に可能かどうかというところに関しては、疑問視している声もあるそうです。双方にとって「核を使う」というハードルがさほど高くないということを、まず念頭に置かなくてはなりません。

飯田)そうなのですね。

須田)その上で、欧米がどういう手を打ってくるのか。1発使われたからといって、すぐにものごとが変わるとか、対応が激変することはないのかも知れません。もちろん「使わせない」という抑止が重要になります。とは言え、使用に関しては冒頭でも申し上げた通り、ロシアの強硬派が「使用しろ」と圧力を掛けていることは間違いないですね。

冷静に考えれば割に合わない「核の使用」 〜それでも可能性はある

飯田)我々は、広島や長崎の惨禍を考えると、都市に落とされたときに甚大な被害が出るという思いがある。一方で軍事専門家の方々に聞くと、広大な平野に展開している部隊に対しての核兵器使用ということになると、特に戦術核のようなものの場合、旅団クラスを壊滅させるのにも複数必要であるように、「ピンポイントに甚大な被害を与える」というところが、今回の戦争でどう作用するのかは別だということです。だからこそ須田さんがご指摘になった、使用のハードルが低いのではないかという話になってくる。

須田)実行性という点で、意識や精神に関して言えば、相当なプレッシャーにはなります。ただ、それが戦況にどう影響するのかを冷静に判断すれば、割に合うのかどうかというところになっていくと思います。

飯田)それによって全世界的な批判を浴びることになる。そんな非人道的なことを行うロシアに対し、味方するような国はおそらく出ないだろうと。その辺りもプーチン氏は、頭のなかで計算しているのでしょうか?

須田)ただ、プーチン大統領の方針としては、一般市民の予備役の海外への派兵には抵抗してきた。それを一部、強硬派によって押し切られたという点は、少し心配な部分ではあります。