デンマークの首都・コペンハーゲン―。ここに日立製作所の鉄道事業の未来がある。6月、日立の子会社であるイタリア・アンサルドSTSとコペンハーゲンメトロのインフラ保有会社であるメトロセルスカベットが「ダイナミックヘッドウェイソリューション」の実証実験に向け覚書を交わした。

 このソリューションは、アンサルドSTSの列車制御技術と日立のデジタル技術やIoT(モノのインターネット)技術を融合させたもの。具体的には、駅に設置されたセンサーから駅の混雑度を可視化し乗客数を分析。その結果に基づき、乗客数の増減に応じて列車の運行本数を自動で最適化する仕組み。

 鉄道ビジネスユニットのアリステア・ドーマー最高経営責任者(CEO)は「IoT基盤『ルマーダ』を活用して開発された。グローバルに向け革新的なデジタルテクノロジーを提供できる」と自信を見せる。独シーメンスと仏アルストムの事業統合が実現すれば、もはや規模の勝負にならない。日立が規模ではなく競争に持ち込めると見立てるのが「鉄道×IoT」だ。

 日本における鉄道サービスの技術は、ほとんどJRグループが保有している。日立が本当にやりたいのは、単なるサービスを超えた新しい市場の創造。「新興国では、鉄道の駅を降りてから、次の交通手段に誘導するようなトランスポーテーションの総合サービスを、顧客と一緒になって発見し、定義し、展開していかないと事業の成長に結び付かない」(中西宏明会長)。

 東京・赤坂の高層オフィスビルの一室。70インチのモニターに映し出されているのは、ベトナム・ハノイの交通データを使った架空の地下鉄路線。「Cyber―PoC」と名付けられた鉄道シミュレーターによって、指先1本で自由に新しい都市鉄道がデザインできる。最大の特徴は、顧客の重要指標をグラフなどで分かりやすく表示する商談ツールであること。

 鉄道インフラの場合、運行ダイヤを自動生成し、どの程度の人が自動車から鉄道に切り替えるかをシミュレーションする。変電所などを含めた建設費、日々の電気代や車両保守など運営費を弾き出し、それに対し1日の利用者と複数の運賃モデル(収入)を想定、どの程度の期間で投資回収できるかまでを提示する。

 今後、「ルマーダ」のソリューションごとに「Cyber―PoC」が実装されていけば、利用頻度と実用性はさらに高まる。東原敏昭社長は「技術がすごいかではなく、相手の経営者に分かるように説明し、最後は顧客がいくら儲(もう)けられるかまで言葉で語ることに意味がある」と話す。

 ルマーダは16年の本格投入以降、利用例は200を超え、知見やデータもたまり始めている。最大の課題は、まだ日立の多くの社員が、どのように活用すれば良いのか分からないということだ。これは鉄道部門に限ったことではない。

 シーメンスのデジタル・ソフトウエア関連の売上高は6000億円近くに達する。IoT基盤で先行する米ゼネラル・エレクトリック(GE)は、まだ鉄道へ本格参入しておらず、シーメンスがアルストムと統合すれば“データ力”が一気に高まる。デジタル領域の戦いも予断を許さない。


【ファシリテーターのコメント】
日立の東原社長が鉄道事業の新しい可能性としてよく引き合いに出すコペンハーゲンの例。IoTはライバルとの差別化における福音となるか。
明 豊