トヨタ自動車が、危機対応力を増し稼ぐ力を着実に高めている。過去10年間で損益分岐点となる連結販売台数を200万台程度引き下げ、2021年3月期はコロナ禍の状況でも前期比で当期増益を達成した。体質改善で一定の成果を上げたが、足元では原価低減活動などを進め、さらなる損益分岐台数の引き下げを目指す方針だ。利益創出力を徹底的に高め、カーボンニュートラルやCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)などの次世代投資に振り向ける。

コロナ禍で先が見通せない中始まった21年3月期は、期初に“基準”として「営業利益5000億円」の予想を公表して以降、計2度の上方修正を実施。通期の業績は従来予想を売上高で2・7%、営業利益で9・9%上回り着地した。営業利益率も8・1%と、20年3月期と同程度だ。

主力市場である北米や、中国を含むアジアで営業利益がそれぞれ前期比33・9%増の3627億円、同15%増の4362億円と増益を達成。12日にオンラインで会見した近健太執行役員は「(08年の)リーマン・ショック以降ずっと取り組んできた『もっといい車づくり』や総原価改善、取引先との減災対策や在庫・品質面での取り組みの成果だ」と総括した。

加えて前期末から「さらに損益分岐台数を数十万台引き下げられた」(近執行役員)。投資余力を維持すべく総原価改善活動の継続のほか、補給部品や用品、中古車、ソフトウエアアップデートといった販売後の保有ビジネスも強化し「バリューチェーンの収益向上も含めて長期的に損益分岐台数を引き下げたい」(同)とした。

トヨタに先立ち21年3月期決算を発表した同業他社では、日産自動車と三菱自動車が営業赤字幅を広げ、SUBARUは営業利益率が前期比2・7ポイント減の3・6%となった。各社がコロナ禍や半導体不足による減産などで減益にあえぐ中、危機状況下でのトヨタの力強さが浮き彫りとなった。リーマン以降築き上げてきた経営体質の強さが、生産、販売の両面で発揮された形だ。

新規開発プロジェクトを一切止めず

注目すべきは販売の回復度合いだ。トヨタ単体としては最も需要回復が早かった中国では20年4月以降、12カ月連続で前年同月比プラスが続いているほか、主力市場の米国でも回復が鮮明。世界販売は20年9月以降7カ月連続で前年超えを維持しており、21年3月は単月として過去最高となる98万台超を販売した。

需要の回復や消費が旅行などのコトからモノへとシフトしたことに加え、ニーズに応じた新車投入を計画通りに実現できたことも大きく貢献した。

けん引役は世界的に人気の高いスポーツ多目的車(SUV)で、ハリアーやヤリスクロスなどを相次ぎ投入。「元々SUVのラインアップは出遅れていたが、拡充により相当なキャッチアップができた」(トヨタ関係者)。

豊田章男社長は中間決算の際に「新規開発プロジェクトを一切止めなかったことが、当初計画通りに新車を出せたことにつながった」と説明している。コロナ禍で安心な移動手段として車が注目されたことも、販売の追い風となった。

これまで培ってきた販売網も生きた。強固なディーラーネットワークをベースに、コロナ禍を受けて「地域関係なくオンライン販売が進んだ」(長田准執行役員)。国内では4月時点で全体の約95%に当たる256社がオンライン商談を導入し、実績につなげている。

さらにグローバルでは、受注残や在庫状況などに応じて地域ごとに戦略車種を変えるなど、現地の裁量で柔軟な戦略をとった。例えば「北米ではインセンティブを在庫状況などに応じてきめ細かく調整しており、それが効果的だと認識している」(近執行役員)という。

「4秒の短縮を地道に」

生産面では、回復する需要をカバーする生産量の確保がカギとなった。国内の自動車各社が半導体不足による減産に踏み切る中、トヨタは欧米の工場で一部稼働を停止したものの「足元で生産への大きな影響は出ていない」(同社幹部)。北米寒波を端緒とする樹脂不足による減産もあったが、影響を最小限に抑えた。世界生産も20年9月以降、7カ月連続前年を上回っている。

機能したのは東日本大震災をきっかけに整備した、サプライチェーンの情報管理システムだ。2次、3次仕入れ先も含めたサプライチェーンの部品ごとの在庫状況などを見える化。半導体などは必要に応じて、1―4カ月程度の在庫を保持する体制をとった。

同時に「仕入れ先に月次から長くて3年先までの、確度の高い生産計画を提示する」(近執行役員)ことで、設備投資計画などを立てやすくしている。実際、サプライヤーからは「トヨタの生産計画は信頼度が高い」との声も挙がる。

併せてトヨタやサプライヤーの生産現場ではコロナ禍による稼働停止期間に需要回復期の増産に備えた活動を実施。例えば日当たり最大50台の増産をするには生産スピードを4秒短縮する必要があるが、「4秒の短縮を地道にやってくれた」と豊田社長。

このため昨夏以降は「急激な増産時でも人を増やさずに対応できた」と続ける。サプライヤーとの緊密な連携に加え、情報を元に機動的に実行できる、いわゆる“ケイレツ”と呼ばれる垂直統合型のサプライチェーンを維持していたことが功を奏した。

3月の世界販売は単月で最高の98万台に(米ケンタッキー工場=トヨタ・モーター・マニュファクチャリング・ケンタッキー、トヨタ提供)

トヨタが利益創出にこだわるのは、次世代技術への投資のためだ。最大のテーマは、温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す「カーボンニュートラル」だ。今回新たに、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)を含む、グローバルでの電動車販売を30年に800万台とする目標を掲げた。このうち電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)が計200万台を占める。25年をめどに550万台としていた従来目標を引き上げる。

欧米メーカーを中心にEVを主軸とする動きがあるが、トヨタの前提は、地域のインフラ事情や顧客の使い方に合わせて各種電動車を供給する「全方位戦略」だ。ジェームス・カフナー取締役は「顧客ニーズに応え各地に適した車両を提供してきた結果。電動化では先頭に立っている」と自信をみせる。EVでは今後、開発リードタイムを15―30%短縮するほか、PHVやHVとの車台共有化も検討する。また電池容量で現状比30倍の車載電池が必要になるとして、電池生産への積極投資も進める方針だ。

トヨタは研究開発費のうち4割程度をCASE分野に振り向けているが、その比率は今後さらに高めていく必要がある。独フォルクスワーゲンや米テスラといった世界のライバルを前に利益率を向上し、次世代競争に備える狙いだ。

(取材・政年佐貴恵)
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