供給網を強靭化

車載用リチウムイオン電池や部材の国際競争力を維持するため、関連業界や企業は国内供給網の強化を急ぐ。4月には国内の完成車メーカーや素材メーカー、商社など55社(4月14日発表時点)が、同分野で国際競争力の強化を目指す電池サプライチェーン協議会を設立した。電気自動車(EV)などが増加すれば、世界的に資源の争奪戦や電池の覇権争いが激しくなる。企業単独だけでなく、国としての戦略が問われる。(取材=梶原洵子、村上授、名古屋・政年佐貴恵、高田圭介、日下宗大)

苦境の日本勢 標準化、中国に警戒感

「昨年の準備段階で、電池サプライチェーン協議会はリチウムの国際標準化に対応するため5社程度で始める予定だったが、あっという間にやるべき仕事も、企業数も(約10倍に)拡大した」。同協議会の阿部功会長(住友金属鉱山執行役員)は急激な変化に舌を巻く。世界的に二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロを目指す動きが加速し、リチウムイオン電池が注目されていることの表れだ。

同協議会の役割は、大きく分けて規制・ルールへの対応と、政策提言の二つ。中国が提案するリチウムの国際標準化に対し、会議の場で意見を出すことは喫緊の課題だ。リチウムは正極材などに欠かせない材料。例えば、他国の機器に依存する分析方法がルール化されれば、日本に不利となる。「リチウム以外でも国際標準が提案される可能性があり注視する」(阿部会長)。

同協議会では、部素材を含む電池サプライチェーンに関する投資支援や、リチウム・ニッケル・コバルト・天然黒鉛などの電池原料確保、経済合理性のある電池リサイクルの仕組みづくり、電池・リサイクルの研究開発への支援などについて政策要望をまとめる。

海外では中国が政府主導で業界を支援し、欧米も環境関連で巨額資金が動く。電池や電池部材の増産には大型投資が必要で、公的助成の差は製品の競争力の差になりかねない。

電池や電池部材は、日本企業の競争力が高かったが、今では電池は中国の寧徳時代新能源科技(CATL)などが席巻する。電池の主要4部材も中国電池市場の拡大を背景に一部は量で逆転され、コスト面で大きく苦戦。部材開発でも「中国勢の技術は急速に進化している」(電池関連技術者)という。

素材メーカー、部材増産

素材各社は国内外で電池部材を増産し、サプライチェーン強化を推進する。旭化成は日向工場(宮崎県日向市)に約300億円を投じ、23年度上期に湿式セパレーターの生産能力を年3億5000万平方メートル引き上げる。三菱ケミカルは米欧中で電解液の生産能力を増強し、23年までに現行比約3万トン増の年9万トン規模に拡大。住友化学は耐熱セパレーターの生産能力を韓国で増強する。

また将来のEV廃車をにらみ、DOWAホールディングスやJX金属は電池のリサイクル体制構築を急ぐ。市場の急拡大を前にした今、素材業界は国際競争力の維持・強化に向け正念場を迎えている。

旭化成は日向工場でセパレーターの増産を決めた

電動化のキモ 車各社、確保急ぐ

車の電動化が急速に進む中、電池の確保は自動車メーカーの重大テーマとなっている。早くから内製化に着手したのが、トヨタ自動車だ。パナソニックとの共同出資で、1996年にハイブリッド車(HV)用電池を生産するプライムアースEVエナジーを、20年にはより高容量の電池を手がけるプライムプラネットエナジー&ソリューションズを設立した。同時に中国のCATLや比亜迪(BYD)とも協業を進め、外部調達にも手を打つ。

トヨタは30年に電動車販売を約3倍に増やす計画で、達成には容量で30倍となる180ギガワット時の電池が必要になると明らかにした。岡田政道執行役員は「生産リードタイムをできる限り短縮して(内製の)生産量を引き上げると同時に、パートナーとしっかり連携して電池供給を万全にしたい」と説明する。

トヨタとSUBARUの共同開発EV「トヨタbZ4X」のコンセプト車

内製化、世界で顕著

世界でも内製化の動きは顕著だ。米国ではゼネラル・モーターズ(GM)が韓国LG化学と共同で工場を建設するほか、米テスラも内製に動く。欧州では独フォルクスワーゲンが30年までに欧州で6カ所の工場を立ち上げる計画を表明し、欧州連合(EU)でも巨額プロジェクトが進む。

一方、日産自動車やホンダは外部提携の強化で安定調達を図る。日産は元々グループだったエンビジョンAESCとの関係を生かすほか、CATLからも調達している。ホンダは18年にGMと電池分野で協業。20年にはCATLと資本提携し1%を出資した。22年をめどにホンダが中国で生産する車両への搭載を計画する。

35年「電動車100%」へ…政府戦略「時間ほしい」

菅義偉首相は1月の施政方針演説で「35年までに新車販売で電動車100%を実現する」と表明した。車載電池関連の技術革新や普及拡大は脱炭素化への重要なピースとして欠かせない。

政府が脱炭素化に向けて示すグリーン成長戦略では、「30年までのできるだけ早い時期」にEVとガソリン車の経済性が同等になるよう電池コストの引き下げを掲げた。その上で30年以降に全固体電池など次世代電池の普及拡大の道筋を描く。次世代電池の技術開発を促すため、4月には2兆円規模の研究開発基金で蓄電池開発も対象にした。

一方でリユース、リサイクルなど使用後に関する制度設計はこれから。車載電池は普及も途上段階で、経済産業省担当者は「まだ市場の予測を立てることも難しい」と語る。

車種によって電動化の足並みがそろわない事情もある。グリーン成長戦略は乗用車を対象とするが、商用車は「21年夏までに検討を進める」とした。ある経産省幹部は「正直なところもう少し時間がほしい」と本音を漏らす。乗用車技術の応用が効きづらい大型車や特殊車両も含め、自動車の脱炭素化には課題が山積する。

24年、世界6.7兆円 「脱炭素」で市場急拡大

車載用リチウムイオン電池の市場は急拡大している。調査会社の富士経済(東京都中央区)によると、24年の車載用電池の世界市場は19年比2.6倍の6兆7403億円を見込む。脱炭素化のうねりを受けて、EVなど電動車の需要が伸びるとみられる。電動車の心臓部である電池の重要性も増している。

電池は戦略物資

カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)への対応を迫られる各国。車載用も含めて、エネルギー政策とも関わる電池は戦略物資となりつつある。環境規制の厳格化が進む欧州では、域内に車載用電池の生産拠点を設置する動きが広がる。電池調達競争が世界的に激しくなるなか、電池材料も含めたサプライチェーンの再構築が求められる。

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