トヨタ自動車が、サプライチェーン(供給網)全体でのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)達成に向け、本格的に動きだす。このほど主要1次取引先に対し、2021年の二酸化炭素(CO2)排出量の削減目標として20年よりも1ポイント厳しい、前年比3%減を要請した。重点業界や部品ごとの目標などを定める内容で、取引先と一体での活動に軸足を置く。産業の裾野の広いトヨタの取り組みは、中小メーカーの脱炭素化を促すきっかけにもなりそうだ。(名古屋・政年佐貴恵、同・山岸渉、江上佑美子)

排出量見える化 改善の重点項目洗い出し

トヨタが取引先に示した方針では、一定量の生産活動で排出されるCO2削減目標に加え、サプライチェーン全体での排出量の見える化と、全方位での排出量低減活動の二つが提示された。ただ、CO2削減量が取引条件となる訳ではない。

排出量調査では以前から実施する企業全体の総量ベースとともに、夏頃をめどに駆動部品から電気系、車体部品まで約80品目の排出量を見える化する。調査対象は材料にまで広がり、重点課題の洗い出しを狙う。低減活動についても省エネ設備の導入に加え、新たな生産技術や設計・材料変更といった根本的な改善策も視野に、取引先からの提案を促す。排出量を見える化するためのツールをトヨタから提供したり、好事例を取引先同士で横展開したりなど支援策も充実させる。この活動は2次、3次以降の取引先にも広げる方針。大企業中心で議論されてきたカーボンニュートラルの活動が、中小企業にまで広がる可能性がある。

オールトヨタで最適解見つける

今回の方針説明について、トヨタと取引する樹脂部品メーカーの首脳は「(電動化など)車と工場の変化を注視して、脱炭素をチャンスにしたい」と前向きにとらえる。また駆動関連部品メーカー幹部は「企業によってカーボンニュートラルに対する認識には差があり、課題意識を共有する狙いもあるのではないか」とみる。

ただし鉄鋼、塗料、部品加工、熱処理など業界や扱う部品によってはもちろん、これまでの環境活動の状況によって各企業のCO2削減の難易度はさまざまだ。「すでに設備の電化なども実施しており、さらなる削減はハードルが高い」(防振材メーカー幹部)。

さらに新たな設備導入や素材変更など、活動によってはコスト増になりかねない。足元でトヨタの生産計画は増産基調にあり「生産量が増えればCO2排出も増す。さらにコストアップしてトヨタが受け入れてくれるのか」(金属加工部品メーカー幹部)と悩ましい声も聞かれる。CO2排出量削減が必須課題となる中、規模や業種の壁を越えて最適解を見いだせるか注目される。

既存技術の活用 日本の強みで選択肢増やす

カーボンニュートラルに向けて企業の枠を超え一枚岩となり、世界に挑む体制を整えるべく意を決した豊田社長

「カーボンニュートラル実現には出口で幅を狭めるのではなく、あらゆる道や選択肢を保つことが重要だ」―。サプライヤーにCO2排出量の削減を要請する一方で、日本自動車工業会会長でもあるトヨタ自動車の豊田章男社長は、既存技術の活用を訴える。例えば水素エンジンや、水素とCO2を化学反応させて合成する燃料「e―fuel」の活用など、カーボンニュートラル技術の多様化で既存サプライチェーンを生かせるとの考えだ。

欧米はカーボンニュートラルの手段として電気自動車(EV)に重点領域を絞り込んでいる。ガソリン車で3万点とされる部品点数が、EVでは1万点減るとも言われる。

特に部品点数の多いエンジン関連の仕事は失われかねないが、豊田社長は「優れた技術を持つ日本の強みを生かして選択肢を増やすことが、カーボンニュートラル時代の競争力維持につながる」と断言。既存技術を環境分野に対応させる考えだ。

自工会では現在、カーボンニュートラルの横断プロジェクトを設置して、取り組みを進めている。企業の枠を超えて一枚岩となり、成果を上げることを目指す。この動きを部品業界など関連する業界へ広げられるかが焦点となりそうだ。

トヨタ系部品 ビジネス失う危機感…新技術「水素カギ」

トヨタグループの部品メーカーは、カーボンニュートラルに向けた取り組みを本格化している。デンソーは35年に工場の省エネルギー活動の強化や、再生可能エネルギーの活用などでカーボンニュートラル達成を目指す。ジェイテクトも40年にグループでCO2排出ゼロを目標とする。

デンソーが新設したCO2循環プラント
デンソーが新設したCO2循環プラント(プラント内部)

「カーボンニュートラルは企業の社会的責任。これを進めないとビジネスを失う危機感を持っている」。豊田合成の小山享社長はこう明かす。同社は50年のカーボンニュートラル達成に向け、30年までにCO2排出量を15年度比半減する計画を策定した。アイシンも生産での30年度のCO2削減量を13年度比46%以上に引き上げる方針だ。

トヨタ系中堅部品メーカーでも環境対応の動きが広がってきた。

東海理化は30年までにCO2排出量を13年比6割削減するほか、本社・本社工場(愛知県大口町)でカーボンニュートラル達成を目指す。ファインシンターは30年度までに13年度比5割減、中央発條も30年度までに同46%を削減する計画だ。

ただ、CO2削減目標の達成には「新しい技術が必要」(井上洋一ファインシンター社長)との声がある。そのため「水素の活用がカギになる。工場などでどう使っていくか考えたい」(佐藤和弘ジェイテクト社長)と言うように水素のインフラ整備や、水素を改質してメタンを合成するメタネーション技術なども重要になりそうだ。

完成車各社 国内様子見、欧州勢が活発

国内メーカーの取り組みはまだら模様となっている。日産自動車と三菱自動車は直接取引する部品メーカーに対し、CO2排出量の削減を数値で要請することはしていない。スズキも予定はないという。ホンダはCO2排出削減についてサプライチェーン全体で取り組む姿勢を示す。ヤマハ発動機は21年中に、カーボンニュートラルに関する目標を設定する。その後部品メーカーにも協力を求め、削減要請する可能性がある。

独ダイムラーは39年に供給網全体でカーボンニュートラルを目指す(オーラ・ケレニウスCEO=昨年の家電・IT見本市「CES」、ブルームバーグ)

海外完成車メーカーでは、欧州勢の動きが活発化している。独フォルクスワーゲン(VW)は50年のカーボンニュートラル達成を公表済み。EV「ID.3」の生産に当たり、サプライヤーに部品生産時のカーボンニュートラル達成を初めて要請した。同車向けの車載電池では、韓国LG化学が再生可能エネルギーを利用して電池を生産している。独ダイムラーは39年に供給網全体でカーボンニュートラルを目指すとみられる。