観光庁はリアルな観光の体験価値を高めるデジタル技術の活用に向けた研究開発に乗り出す。モノに触れたり水に濡れたりする感覚を再現する高臨場感技術や複合現実(MR)の活用技術など、おおむね3年で実用化が見込める研究開発を企業などに委託する。2022年度から3カ年の事業として行うことを視野に検討している。観光地は新型コロナウイルス感染拡大により大打撃を受けた。コロナが収束した後の反転攻勢において、デジタル技術を活用した新たな体験価値の提供により、地域が収益力を強化できるようにする。

観光庁は現在、企業などに委託すべき研究開発テーマのアイデアを募集している。現地での体験価値向上に資する技術や遠隔地にいても現地を体験できる技術、地域経営の収益力強化を促進する技術などを対象に7月20日まで公募する。具体的なイメージとしては、力感覚や皮膚感覚を再現して本来は触れない文化財や立ち入れない場所を体感できる高臨場感技術などのほか、3D表示技術であるホログラムの高度化や人流データを活用したダイナミック・プライシング(動的価格設定)技術などが想定される。応募のあったアイデアを参考に研究開発テーマを決める。

研究開発のテーマは、自宅からパソコンなどで参加して観光地の映像を楽しむだけのオンラインツアーのようにデジタル技術で完結する課題ではなく、デジタル技術とリアルな観光資源や観光施設を融合させる課題を重視する。観光庁観光資源課の中谷純之新コンテンツ開発推進室長がその理由を説明する。

「(コロナ禍によって)リアルな観光に対する生活者の需要は高まっており(※1)、我々はそれを(デジタル技術と融合させた)観光DXでさらに喚起したいと思っています。地域の活性化につなげたい思いもあります。また、イノベーションは複数の要素を組み合わせてこそ生まれると考えます」

※1:JTBが15―79歳の男女を対象として20年4月に行った調査によると、新型コロナ影響前と比較した旅行に対する考え方について23.2%が「国内旅行したいという意識が高まった」と回答した。

一方、今回の取り組みは観光庁にとって初の研究開発施策になる。採択された企業が単年で一定の成果物を求められる調査・実証事業と異なり、委託を受けた企業は基本的に複数年の計画を立ててスタートする。

「(今回の研究開発施策は)基本的に同じ企業に3年間委託します。それによって技術的なブレークスルーが起こせると期待しています。技術に深みが増し、その実用化によって顧客満足度や観光消費額が一層押し上げられると見込んでいます」(中谷室長)

政府は16年に、30年までに訪日外国人旅行消費額を15兆円に拡大する目標を掲げた。コロナ禍は20年の訪日旅行消費額を前年比84.5%減の7446億円まで押し下げたが、30年目標は堅持している。今回の研究開発はこの目標達成への貢献も期待される。

㊤取材時に観光庁の中谷室長が示した資料(公開情報を基に中谷室長が作成。中谷室長の私見含む)。イノベーションは、オーストリアの経済学者・シュンペーターが定義した概念。シュンペーターはイノベーションにおいて経済の諸要素を新たに組み合わせて結合させる『新結合』の重要性を提起した。中谷室長はこのことを指摘した上で、観光DXにおいても「デジタル技術」と「リアル」という二つの要素の融合が肝要と説明した。