養鶏など畜産や農業に新技術を導入するにはコストが壁になる。農業用資材の価格は工業品に比べ半値が相場とされる。ただ、製造業で使われる技術を、そのまま現場に導入することは難しい。作業の効率化に加え、売り上げを増やす取り組みが必要になる。

鹿児島大学の小沢真准教授らは一時期、死んだ鶏の回収ロボットの開発に取り組んでいた。従来は数千羽いる鶏舎の中から死んでいる個体を人が探して取り除いていた。これは大変な負担であるほか、鶏舎に入ることでウイルスなどを持ち込むリスクもある。機械化できれば、これらの課題を解決できる。

しかし鶏舎に投入した回収ロボットに鶏が興味を持って集まってきてしまった。鶏に囲まれたロボットが誤って鶏をひいてしまう可能性があるため導入できなかった。この経験が結果として「低コストの人工知能(AI)カメラを実用化する」きっかけとなった。

山形大学の片平光彦教授らも死んだ鶏の回収ロボットの開発に取り組んだ。ところが装置が大がかりになるほど、投資効果を出すのが難しくなった。研究成果は出たものの、実用化のハードルは高かった。鹿児島大の小沢准教授は「まずビジネスモデルを考えてから開発しないと実用化は難しい」と指摘する。導入費用を抑える工夫が必要になる。

動物福祉の根拠

そこで注目されるのがSaaS(サービスとしてのソフトウエア)ビジネスだ。例えばある搾乳機メーカーは装置販売に加え、日々の乳量データの管理台帳サービスを展開する。牛の行動分析センサーメーカーが管理台帳システムを組み合わせ、AIで異常検出などを手がける例もある。

養鶏もSaaSによる飼育管理サービスが考えられる。東京農工大学の新村毅准教授は「日本が勝負するなら飼育の品質。各地で飼育する地鶏など鶏の品種の4分の1が日本にいる。養鶏農家は丁寧で緻密な飼い方をしている」と話す。海外と同じ種類のケージで採卵鶏を飼育しても、日本の死亡率は半分程度にとどまる。

鶏舎の大規模化が進み、100万羽単位のデータ取得も可能になった。鶏の健康状態や行動発現量などの大規模データを収集し、AIを使ってアニマルウェルフェア(動物福祉)の根拠を示せば海外主導の飼育基準に振り回されず、動物福祉と経済性を両立できる。

逆転狙う

さらに鶏舎のリモート管理が実用化に近づけば、日本が得意とするきめ細かい飼育ノウハウを海外に販売することも可能となる。山形大の片平教授は「鶏は牛や豚ほど差をつけられていない。日本の技術で十分に逆転を狙える」と力を込める。