半導体クライシス(危機)の“第2波”がやって来た。2020年末に顕在化した第1波は半導体製造の前工程が集中する台湾起点だったが、今回の第2波は後工程の一大拠点である東南アジアが中心だ。新型コロナウイルスの感染再拡大がサプライチェーン(供給網)の構造的脆弱性を図らずもあぶり出した格好だ。構造的ゆえに第2波の解消にはより時間を要する可能性があり、自動車メーカーなど顧客を悩ます供給不安は長引きそうだ。(編集委員・鈴木岳志)

トヨタ減産の衝撃

トヨタ自動車が10日に発表した大幅減産は半導体業界にも衝撃を与えた。新型コロナウイルス感染拡大が続く東南アジアからの部品供給が滞り、自動車の生産に支障が出ているという。

自動車部品に使う半導体不足が主要因の一つだ。第1波では、21年3月に関係の深いルネサスエレクトロニクスの那珂工場(茨城県ひたちなか市)で火災が発生しても深刻な影響のなかったトヨタだけに、今回のショックはより大きい。

第2波などの影響は日系自動車メーカーに限っても合計100万台以上の減産になる見通しだが、その規模はさらに拡大する可能性がある。すべては東南アジア各国での新型コロナ感染拡大状況にかかっているからだ。

半導体の製造は前工程と後工程に大別される。前工程はシリコンウエハー表面にトランジスタなどの電子回路を形成する。露光装置など大型設備を数多く使用するため、巨額の投資が必要だ。前工程の工場は台湾や韓国、日本に集中し、特に最先端品の前工程は半導体受託製造(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が強い。

20年の新型コロナによる車載用半導体の需要乱高下に加えてIT特需や5Gスマートフォン普及が重なったことで、TSMCなどのファウンドリーに注文が殺到した。その結果、需給バランスが大きく崩れて、半導体クライシスの第1波を生み出したとされる。

英国調査会社のオムディアによると、世界の半導体産業は国・地域別の生産能力で見ると、韓国21%、台湾20%、日本・中国各19%で、米国は11%、欧州が10%にとどまる。このアジア生産一極集中がサプライチェーンの弱点という認識が日米欧で広がり、TSMCなどファウンドリーの自国誘致争いに発展していった。

組み立て工程とも呼ばれる後工程は、前工程で回路を形成したウエハーをチップサイズに切り離し、樹脂などでパッケージング加工して、検査するまでの一連の流れを指す。前工程と似た世界地図で東アジアが中心になるものの、1カ所だけ異なる点がある。それが東南アジアの登場だ。

完全な装置産業の前工程と違って、後工程は人手もある程度必要なため、人件費が欧州や東アジアより安く、国民性が組み立て作業に向く東南アジアへ後工程工場が相次ぎ進出した経緯がある。

マレーシア直撃

特にマレーシアは車載用半導体大手の独インフィニオンテクノロジーズや蘭NXPセミコンダクターズ、スイス・STマイクロエレクトロニクスに加えて、日本のルネサスも後工程工場を構える。ほかに、半導体後工程請負業(OSAT)を手がける地元企業もおり、最近の新型コロナ感染拡大が後工程の一大集積地を直撃した。

トヨタ減産の一因はSTマイクロのマレーシア工場の操業停止と言われるが、進出企業はどこも当局から大小さまざまな操業規制を断続的に受ける。ルネサスは現時点で通常稼働しているようだが、同国で感染が深刻化した21年春以降、操業停止や従業員の出社制限などに従ってきた。今後も予断を許さない。

経済合理性から長年かけて構築された世界の半導体分業体制。労働コストを軸に考えれば、後工程のサプライチェーン再構築の難易度は高そうだ。アジアの他国へ移転できたとしても感染症の脅威は等しくやって来るため、地球上に逃げ場はない。

第2波の陰で問題が大きくなりつつあるのが半導体製造装置の長納期化だ。車載用ほど目立たないが、ルネサスの工場火災などにより、半導体を使用するあらゆる機器の生産に支障が出始めた。その中でも、特に需要が旺盛な半導体製造装置の部材不足の被害はより深刻だ。

TSMCや韓国・サムスン電子、米インテルなど世界大手は設備投資を急ぐが、装置の調達難が増産ペースにブレーキをかける恐れがある。世界的な半導体不足の解消は22年以降との見方が大勢だ。しかし、新型コロナのように半導体危機の第3波、第4波、第5波の可能性も否定できない。


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