2021年のノーベル生理学・医学賞は、温度と触覚の受容体を発見した米カリフォルニア大サンフランシスコ校のデービッド・ジュリアス博士と、米スクリプス研究所のアーデム・パタプティアン博士に授与されることが決まりました。
 日刊工業新聞社が発行した書籍『おもしろサイエンス神経細胞の科学』(倉橋隆、竹内裕子著)から、温度や痛みを感じる仕組みについて書かれた項目を抜粋し、2回に分けて紹介します。

熱さも冷たさも感じるTRPスーパーファミリー─体性感覚─

 

体性感覚と言っても、1つの特殊感覚を指すのではありません。皮膚感覚、深部感覚、内臓感覚の総称です。

 

皮膚感覚には、圧力を感じる「圧覚」、さわり心地が分かる「触覚」、痛みを感じる「痛覚」、温度をキャッチする「温覚・冷覚」があります。

 

深部感覚は、筋肉や骨、骨膜や関節などが動いていることに対する感覚です。その中には、体幹や四肢の関節が屈伸した時にわかる「運動覚・位置覚(両方の総称を関節覚といいます)」、振動がわかる「振動覚」、皮膚と内臓の中間領域での痛みがわかる「深部痛覚」があります。内臓感覚では、内臓に分布した神経が内臓の活動や痛みなどを脳へと伝達します。体性感覚については、医学・医用工学の分野で研究が盛んですが、近年、温度受容に関するチャネル研究が発展して、主要チャネルであるTRPチャネルの特性が明らかになりつつあるので紹介します。

 

TRPチャネルは1989年にショウジョウバエの眼の受容器変異体の原因遺伝子としてTRP遺伝子が同定されてから、各方面で爆発的に研究が進んだチャネルです。このチャネルが温度信号を電気信号に変換することがわかりました。構造は6回膜貫通型のタンパク質で、4量体、5─6貫通領域の間にポアがあり、そこを通って細胞外から陽イオン(Na+やCa2+)が流入することで脱分極すると考えられています。このTRPチャネルはN末端やC末端、各ドメインの構造と要素が少しずつ異なるファミリーを構成して(TRPスーパーファミリー)、それぞれ機能が違います。なお、似通ったドメイン(タンパク質の構造または機能的に独立した部分構造)や遺伝子を持っているものを「スーパーファミリー」といいます。

 

例えば、冷たい温度やメントールを受容するTRPM8はN末端にTRPMホモロジードメインと呼ばれる構造を有し、熱い温度やカプサイシンを受容するTRPV1はN末端にアンキリンリピートと呼ばれる構造とC末端にカルモジュリン結合部位を有しています。

 

多種多様なTRPチャネルが身体の至るところに発現していることからも、センサーとして機能していることがわかります。これらのチャネルはすべてCa2+やNa+流入を引き起こしますが、それぞれのTRPチャネルにより細胞応答は異なります。

イラスト:竹内裕子
(「おもしろサイエンス神経細胞の科学」p.127-128より一部抜粋)

書籍紹介

私たちの身の回りには、五感をはじめとした神経系の働きと密接に関係した商品が数多く存在しています。本書ではヒトの機能、神経細胞についてやさしく解説します。


書名: おもしろサイエンス神経細胞の科学
著者名:倉橋 隆、竹内 裕子
判型:A5判
総頁数:160頁
税込み価格:1,760円

執筆者


倉橋 隆(くらはし たかし)
1990年 筑波大学大学院 修了(理学博士)
1990─1996年 生理学研究所 助手
1992年 ジョンズ・ホプキンス大学医学部 リサーチフェロー(上原財団)
1992─1993年 モネル化学感覚研究所・所長招聘リサーチフェロー
1996─1997年 大阪大学大学院 助教授
1999年─現在 大阪大学大学院 教授
2010年─現在 三重大学大学院 客員教授、リサーチアソシエイト
【受賞歴】
モエヘネシールイヴィトン(仏) ダビンチ賞
米化学感覚学会(AChemS) Takasago賞

竹内 裕子(たけうち ひろこ)
2000年 慶應義塾大学大学院 医学研究科修士課程修了
2000年 大阪大学大学院 基礎工学研究科 助手
2002─2007年 大阪大学大学院 生命機能研究科 助手
2005年 イタリアSISSA(International School for Advanced Studies)リサーチフェロー
2005年 大阪大学大学院 基礎工学研究科 論文博士取得(理学博士)
2007年─現在 大阪大学大学院 生命機能研究科 助教
2010年─現在 三重大学大学院 医学研究科 客員研究員
【受賞歴】
 日本生理学会 奨励賞
 FAOPS Young Investigator Award

目次(一部抜粋)


第1章 神経細胞って何?
第2章 体の中で情報が伝わる仕組み ―神経・細胞・情報の機能と役割―
第3章 イオンチャネル ―神経活動の主役―
第4章 神経細胞内で働くさまざまな物質
第5章 感じる仕組み ―感覚を物理化学で解き明かす―
第6章 神経生理学とは ―神経の活動やイオンチャネルを研究する方法―