自動車や機械などの部品加工をはじめ、製造現場で幅広く使われている切削工具の値上げの動きが広がっている。工具の原材料である鋼材やレアメタル(希少金属)の高騰に加え、電力や物流費などの上昇も重なり、工具メーカー各社の自助努力だけでコスト増を吸収するのが難しくなったことが背景としてある。工具の最終ユーザーである中小製造業にとっても、工具の値上げはコスト増に直結するだけに無視できない問題となっている。(特別取材班)

各社、コスト削減策に限界

「工具の値上げは困るが、材料費や燃料費が上昇しており致し方ない」「医療関連など新分野進出に伴って工具を多く購入する必要があり、痛い」。大手切削工具メーカー各社による値上げの表明に対し、中小製造現場では一定の理解を示す声がある一方、経営への影響を不安視する声も多く挙がっている。

大手切削工具メーカーの中で、住友電気工業はハードメタル事業の切削工具製品について7月1日受注分から値上げに踏み切った。値上げ率はインサート(刃先交換チップ)で15%、マルチドリル、ソリッドエンドミルなどの丸物工具で15―20%といった状況だ。不二越は超硬ドリルや超硬エンドミル、タップなどを対象に8月1日出荷分から5―10%の値上げを実施。OSGは8月22日受注分から一部製品について7―20%の範囲で値上げする。

このほか三菱マテリアルや京セラ、ダイジェット工業、タンガロイ(福島県いわき市)、サンドビック(神戸市中央区)などが10月1日受注分から、MOLDINO(モルディノ、東京都墨田区)が10月3日受注分からの値上げをそれぞれ予定している。

値上げの背景の一つが切削工具の主要原材料であるタングステンやコバルトの高騰だ。タングステンに関しては世界的な需要回復を受け、国際相場の指標となる中間原料のパラタングステン酸アンモニウム(APT)の高騰が続く。コバルトは自動車の電動化進展に伴い、電池材料としての需要が高まっていることも価格を押し上げる要因となっている。

さらに電力をはじめエネルギーコストの上昇、コロナ禍の物流の混乱による輸送費の上昇なども追い打ちをかける。工具メーカー各社は生産性向上や合理化などのコスト削減策を進めているものの、工具価格を維持するのは難しい状況となっている。

刃先交換式のインサートやソリッドエンドミル、タップなど幅広い品目が値上げの対象となる

工具メーカーの業界団体である日本機械工具工業会は、2022年度の機械工具生産額の見通しを前年度比1・3%増の4770億円に設定している。ただ、上・下期別にみると上期が前年同期比4・7%増に対し、下期は同2・1%減とマイナスを予想する。ウクライナ危機の長期化による資源の高騰、米国の金利の上昇などの影響を踏まえ、慎重ムードが漂う。

工具メーカー各社の値上げ表明を受け、ユーザーである中小製造業の反応はさまざまだ。「資材に比べ、工具や切削油は価格転嫁の説明が難しい。より説得力のあるデータを基に顧客への見積もりに反映させるよう努力を続けている」(松山市内の継ぎ手加工業)と価格転嫁の交渉に前向きな企業がある半面、「工具(の価格)が上がるからといって価格転嫁はできない」(東京都内の機械部品加工業など)と慎重な姿勢も目立つ。

中小、価格転嫁対応に濃淡

松江市内で歯車加工を手がける企業の社長は「毎月の工具代からみて、工具だけでは価格転嫁はできない。材料費や燃料費などの上昇に合わせての値上げをお願いすることになる」と説明する。岐阜市内で機械部品などの加工を手がける企業の社長は価格転嫁について「当面は様子見」としつつ「値上げ幅が特に大きな工具の分は個別に交渉する」との対応だ。

鳥取市内で精密部品加工を手がける企業の社長は「工具の値上げは厳しいが、それ以上に超硬工具の入荷がかなり延滞しているのが問題。現状はメーカーを変更し、代替品で何とかしのいでいる」と納期面の問題を指摘する。同社の場合、受注のたびに見積もりをする案件が多いことから価格交渉はしやすい状況にあるが「代替品では加工条件などを見直す必要があり、生産計画に影響が出ている」と打ち明ける。

工具メーカー各社が相次いで値上げを打ち出す中、価格や納期の面で競争力のある別のメーカーの工具に切り替えたり、中国や台湾など安価な海外メーカー製工具の導入を検討したりする取り組みが広がる可能性はある。ただ、加工条件の変更などの手間を考えるとメーカーの切り替えは一筋縄ではいかなそうだ。

一方、工具調達ルートの変更に活路を見いだそうとする動きも出てきている。大阪府内で精密部品の試作などを手がける企業の社長は「従来インターネット頼みだった工具の発注を、知り合いに紹介してもらった工具商社経由にすることで安く調達できるようになった」と語る。

「より高能率なレベルの高い工具を買って、効率の良い生産をしていく」。兵庫県内でシャフト加工を手がける企業の社長がこう語るように、工具値上げは確かに経営上苦しいものの、加工能率を一層高める機会ととらえる企業も多い。富山県内で半導体製造装置用部品などの加工を手がける企業の社長も「早く(部品を)削れるように改善をする」としており、生産効率を高めて多くの部品を作れるようにすることで利益を確保する構えだ。

こうした前向きな企業を応援する意味でも、工具メーカー各社には値上げに見合うだけの工具性能のさらなる向上が求められる。11月8―13日に開かれる第31回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2022)は、工具メーカーにとって技術をアピールする絶好の場となり、ユーザーの期待度も高い。

4年ぶりのリアル開催が予定されるJIMTOFでの技術提案に期待が集まる(18年のJIMTOFの三菱マテリアルブース)

前回の20年はコロナ禍でオンライン開催を余儀なくされ、無事開催されれば4年ぶりのリアル開催となるJIMTOF2022。18年のリアル展では航空機分野で使われるチタン合金など難削材加工用の工具とともに、耐摩耗性や耐欠損性の向上による工具の長寿命化、加工効率向上に関する提案が目立った。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)対応が世界的な潮流となる中、JIMTOF2022では切削加工現場の脱炭素に貢献する技術やサービスも工具ユーザーの関心を集めそうだ。


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