半世紀前の風景再現、生物多様性保護地域に

パナソニックの草津工場(滋賀県草津市)には、840種の動植物が生息する緑地「共存の森」がある。従業員が2011年から整備し、半世紀前の地元に広がっていた風景を再現した。環境省は23年度、生物多様性の質が高い民間の土地を保護地域に認定する制度を始める。共存の森は試行事業で「認定相当」に選ばれ、現場では保全への意欲がさらに高まっている。

冷蔵庫やエアコンなどを製造する草津工場の一角、1万4000平方メートルの敷地が共存の森だ。水辺や草地、林がある緑地だが、整備前は外来植物が多く、生物多様性の質が高いとはいえなかった。

工場が立地する瀬田丘陵は、人の生活の影響を受けながら自然が保たれてきた里山であり、ため池が多い。琵琶湖や山地もあり、生物の休息や繁殖の場となる緑地も点在する。草津工場も地域の緑地と空間的に接続したエコロジカルネットワーク(緑の回廊)にしようと共存の森の整備を始めた。

まず水路を造作して水辺を拡張し、専門家の助言を得て外来植物を伐採した。代わって鳥が運んできた種から発芽した苗を育てたり、従業員がドングリを持ち帰って自宅で育てから移植したりした。近隣の工事で切り倒す木があれば譲り受けた。地域に古くから植生する在来種を増やす取り組みだ。

初めの調査だと共存の森で確認できた動植物は580種だったが、16年には840種まで回復。その数は草津市に生息する動植物の3割にあたり、面積当たりの種数が多い。パナソニックくらしアプライアンス社サステナビリティ推進係の椙山和紀係長は「エサを求めて飛来する鳥の種も多く、いくつもの食物連鎖が構成されて生物の共存関係ができている」と良好な生態系を解説する。

通常、事業所の植栽は手入れの簡単さや見た目を考え、常緑樹が選ばれる。共存の森は落ち葉や枯れ草があっても放置する。間伐した木や枝は砕いて敷地にまく。動物のすみかや餌にするためだ。生態系の維持だけでなく「処理費用もかからない」(椙山係長)と費用との両立ができている。

共存の森は生物多様性の豊かさが認められ、いきもの共生事業推進協議会(事務局=MS&ADインターリスク総研)の認証や優秀賞、滋賀県の生物多様性の認証制度で「三つ星」を獲得した。アプライアンス社環境管理係の中野隆弘主務は「難しいことをせず、シンプルに取り組んだ」と振り返る。

工場の緑地は環境保全活動として地域にも伝えやすい。近隣の小学校に環境学習を提供しており「親に『あの森の秘密を知っている』と自慢する子どももいる」(椙山係長)という。地元出身の中野主務も「70年代のころの原風景」と誇らしげに語る。

水辺や草地、林で構成される共存の森は、環境省の「自然共生サイト」認定制度の試行事業で「認定相当」に選ばれた

7日に開会する生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)では、陸と海の30%を保護地域にする世界目標の合意が見込まれている。日本は民有地を入れて達成を目指しており、環境省は民間の緑地を「自然共生サイト」に認定する制度を23年度に始める予定だ。22年度は試行し、共存の森を含めて23カ所を選んだ。緑地の保全に取り組む企業は多く、国からの評価も企業の意欲を高める。