総合商社が食品や飼料の市場を深耕している。伊藤忠商事は、味覚データと購買情報を掛け合わせたデジタル変革(DX)で食品開発を広くサポートする。環境負荷の低減などが期待される代替たんぱく質をめぐっては、住友商事が昆虫の飼料活用を進めるほか、丸紅は食品スタートアップの海外展開を後押しする。嗜好の広がりや環境問題の解決など、多様化する食の課題に対応する動きが加速している。(編集委員・田中明夫)

伊藤忠商事はDXを使って食品開発支援を押し進めている。商品の味覚情報と年齢や性別といった顧客ごとの購買情報(ID−POSデータ)を掛け合わせたデータベース「FOODATA(フーデータ)」の提供を2021年に開始し、グループ内外や試用を含め約50社が活用した。

食品市場では消費者ニーズの多様化で商品サイクルが短縮し、ターゲット層を細かく捉えた商品を素早く開発できるかがカギとなっている。卸・小売りでのプライベート商品の開発のほか、消費データを食品原料の用途拡大に生かすなど川上や川下でも活用が進んでいる。今後はSNS(交流サイト)情報の活用や広告販促への応用など「データの深さとサービスの幅を広げる」(リテール開発第二課の葛西大気プロジェクトリーダー)考えだ。

住友商事は、シンガポールの新興企業ニュートリション・テクノロジーズ(NT)と提携し、昆虫由来の代替たんぱく質の飼料活用を推進する。まずは魚粉の一部代替として昆虫のアメリカミズアブを養殖魚の飼料などに加工し、23年度中の国内提供を狙う。

たんぱく質をめぐっては、世界的な人口増加や食肉化に伴う供給不足、畜産工程での温室効果ガス(GHG)の排出が課題となっており、代替品への注目度が高まっている。住友商事は30年までに日本で、年間約3万トンの昆虫由来代替たんぱく質とオイルの取り扱いを目指す。

また、丸紅は4月に食品系インキュベーターの米キッチン51ベンチャーズ(キッチンタウン)と出資契約を締結した。食の社会課題を解決する先進技術「フードテック」の分野でキッチンタウンと連携し、「日本やアジア圏のスタートアップに対するグローバル展開支援やソリューションの提供に貢献していく」(三木智之執行役員食料第一本部長)。

米国では大豆を用いた代替肉などフードテックの開発が盛んで、キッチンタウンはマーケティングや研究開発支援などで100社以上のスタートアップ支援実績がある。丸紅はキッチンタウンが輩出する成長企業との協業を通じて、食品ビジネスの成長を図る。

米投資会社Agファンダーによると、世界のフードテック投資額は12年の31億ドルから21年には517億ドルにまで拡大。総合商社は飼料生産から商品開発に至るまで多様化する食の課題に対応すべく自社の事業ネットワークや経営資源を生かしたイノベーションの創出支援が求められている。