政府が新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行したことを受け、経済活動は本格回復に向かう。一方、感染症拡大リスクは拭えず、一足飛びに「正常化」とはいかない。アフターコロナを見据え、マスク着用など職場での感染対策やテレワーク制度のあり方を模索する企業の動きを追った。

政府は3月8日、感染防止の基本として「その場に応じたマスクの着用や咳エチケットの実施」などを柱とする「新たな健康習慣」を公表し、同13日にはマスク着用を個人の判断とした。さらに5月8日、新型コロナが「5類」に移行した。多くの企業が政府の方針に沿う形で、マスク着用や職場での感染対策を緩和する。

東芝は8日で島田太郎社長を本部長とする「総合COVID対策本部」を解散し、新型コロナ感染症に係る各種対策を終了した。トヨタ自動車も8日以降、黙食の奨励をやめたほか、海外出張の際の「政府が推奨するワクチン3回接種」との条件を撤廃した。また出張は業務状況に応じて必要性を判断していたが緩和した。

職場の景色も変わる。クボタは設置していた飛沫防止の仕切り板やアルコール消毒液を撤去した。神戸製鋼所は仕切り板に関しては各部署で設置継続の要否を判断し、会議室など共通エリアではなくした。浜松ホトニクスも仕切り板は食堂を除き撤去した。

大阪ガスは執務スペースでの仕切り板の設置を5月以降は任意としたものの、撤去する場合でも廃棄せず保管するよう通達した。再び感染が拡大し今夏に「第9波」がやってくるとの指摘もある。各社とも有事に備えながら、正常化を探ることになる。 

マスク着用ルールをめぐっては、3月13日の政府方針後も「様子見」とする企業がちらほらあったが、5月以降は「原則任意」とする企業が圧倒的だ。

ただ状況によってマスク着用を推奨する企業が目立つ。三菱電機はマスク着用は任意とするが、「会議や打ち合わせなどで密になる場合は、飛沫防止に留意するよう注意喚起する」という。YKKも小さな会議室などで社員同士の距離が確保できない状態で会話する場合はマスク着用をルールとする。

原則任意だが、密になる状況では着用を推奨する―。これが企業のオフィスでのマスク着用ルールの傾向だが、「現状では全員がマスクを装着しており、今後も相当数が着用する見通し」(北越コーポレーション)との声が上がる。オフィスでは当面“マスクモード”が続く可能性もある。

テレワーク見直し、上限復活 出社と使い分け

コロナ禍で感染対策の一環として普及が拡大したテレワーク。クボタはコロナ禍で制度を拡充し現在、本社のテレワーク実施率は約4割に上る。神戸製鋼所もコロナ禍で制度を拡充した。テレワークは産業界の新常態になってきた。

一方、テレワークの目的が「『感染拡大防止』から『働き方の選択肢の一つ』に変わる」(ダイハツ工業)状況の中、運用を見直す企業も目立ってきた。

バルカーは本社社員について、原則リモートワークとする方針を転換し8日から原則週2日以上の出社とする。東ソーはコロナ禍で一部従業員に対し、上限回数(月6回)を撤廃してテレワークを運用していたが、8日以降は上限回数を復活する。北越コーポレーションはコロナ禍限定のテレワーク制度を廃止し、特定の理由に対し適用する制度を実施する予定。川崎重工業はコロナ禍での利用実績をもとに運用方針の見直しを検討している。

テレワークについて「フェース・ツー・フェースならではの意思疎通が損なわれて非効率の面もあった」(日本製紙)といったようにコミュケーションの問題を指摘する声が各社から上がる。部下のマネジメントや教育に問題が生じるとの指摘が目立つ。ホンダは「対面でのコミュニケーションを重視する」と明言する。

一方、テレワークが通勤時間の削減や柔軟な働き方の実現に役立つのは事実。このためメリットは認めつつ、「職場ごとの状況などに応じてリモートワークと出社を使い分ける」(ダイハツ)との運用が各社共通の動きだ。

DICは8日以降は週2、3日程度の出社を求め、本社社員の出社率を現在の3、4割から、5割の水準に高める方針。オフィスの一部フロアについて、用途に応じて柔軟にレイアウト変更できる仕様にするなど、テレワークに対応しつつ出社が増えても効率良くオフィスを利用できる環境を整備した。

ソニーグループもコロナ禍で拡充したテレワーク制度は維持しつつも、「多様な人材がリアルな空間と時間を共有し得られる価値を重視した新しい働き方に移行する」とする。

テレワークをめぐっては「この数年間の情報の蓄積だけで(メリット・デメリットを正確に)判断することはできず、評価は難しい」(IHI)との声も。その効果をどう最大化するか。企業の模索はまだ続きそうだ。