トヨタ自動車が、燃料分野へのアプローチを強めている。水素製造装置を開発しデンソーと実証試験を始めたほか、バイオエタノール燃料でも製造プロセスの確立を目指し動き出した。脱炭素化燃料は、コストに加え供給面での量やインフラ整備が課題。知見を社会で共有できれば、電気自動車(EV)だけでない、地域のエネルギー事情に合わせた選択肢を増やすことにつながる。トヨタは燃料技術を“手の内化”し、「脱炭素技術の多様化」に向けた下地を作る。(編集委員・政年佐貴恵)

水素製造、「ミライ」の部品流用

「量産技術を使った画期的なシステムだ。世界の1歩、2歩先を行っているのではないか」。トヨタが開発した水電解装置を前に、産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所の古谷博秀所長代理は興奮気味に期待の声を寄せた。

トヨタ自動車が開発し、デンソー福島に設置した水電解装置

水を電気分解して水素を作る装置で、3月からデンソー福島(福島県田村市)の生産工程で水素を動力源とする実証試験を始めた。最大の特徴は、水電解部にトヨタの燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」に搭載する発電用スタックの部品と生産工程を9割流用した点だ。実車に搭載されている信頼性や耐久性のほか、量産部品を使うことでコスト低減にも寄与する。

トヨタの浜村芳彦統括部長は「装置のためだけに水電解部品を作ろうとすると、数倍というレベルでコストは変わってくる」との試算を明かし、「ミライの部品を流用すればトータルのスタック生産量が増えるので、燃料電池の値段も下がる」と、相乗効果の可能性を説明する。今後は水電解装置の量産化を目指し、実証を進める。

新たな燃料の可能性も探り始めた。2022年7月、トヨタはENEOSなどと、バイオエタノール燃料の製造技術をテーマとする「次世代グリーンCO2燃料技術研究組合」を設立した。自動車メーカーなど計7社が参画。福島県大熊町にバイオエタノールの生産や、原料となる植物の「ソルガム」の栽培を行う拠点を設立する予定で、6月に着工、24年10月に稼働を始める計画だ。バイオエタノールだけでなく、精製の過程で生じる二酸化炭素(CO2)を水素と反応させて合成燃料を作るといった検討も進める。

各国・地域に最適提案 国と連携、社会実装目指す

トヨタがさまざまなエネルギー源の活用を模索する背景には、EVやハイブリッド車(HV)など、各国・地域のエネルギー事情に合わせて最適なパワートレーン(駆動装置)を展開する「マルチパスウェイ」の考えがある。ただし電気を直接使うEV以外の次世代燃料車は、燃料供給インフラが整っていないこともあり、発展途上だ。普及には車両開発はもちろん、燃料でも製造からコスト低減策まで技術を確立する必要がある。エネルギーの地産地消の可能性がある水電解装置や、新しい選択肢の一つであるバイオエタノールの技術確立は、その一端だ。

今、安全保障の面で多様化は重要なキーワードになりつつある。ロシアによるウクライナ侵攻以降、エネルギー情勢は不安定になり、自国生産の観点からも動きは活発だ。あるトヨタ幹部は「中国や欧州が相当な勢いで水素戦略を進めている」と話す。貯蔵や運搬がしやすい液体燃料にも期待が集まる。別の幹部は「体積当たりのエネルギー密度が高い液体燃料を、カーボンフリーにしなければならないと我々は考えている」と明かす。

トヨタは水素を代表とする次世代燃料の領域で、業界の枠をまたいで着実に連携先を増やし機運を醸成してきた。国のエネルギー戦略とも協力しながら、うねりを高めて社会実装に落とし込むことが次のステップになる。

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