企業が経済安全保障や地政学リスクへの対応強化に乗り出している。産業に欠かせない重要な物資の安定確保や米中対立、台湾有事など中国リスクを念頭に、国内生産の強化や調達先の分散といった動きが広がりつつある。中国などに依存しない生産体制やサプライチェーン(供給網)の構築を急ぎ、原材料や製品の安定確保につなげる。

経済安全保障の観点から日本政府が「特定重要物資」に指定する半導体供給網への備えが進む。イビデンは国の支援を受け国内生産を強化する。2026年3月期中の稼働を目指す大野事業場(岐阜県大野町)が経済産業省から半導体を搭載する基板の生産能力拡大に最大405億円の助成を受ける。青木武志社長は「半導体関連に力を入れたいという(政府の)思いがある」と受け止める。

同業の新光電気工業の倉嶋進社長は「一部の原材料の調達先を変更している。今後も1次サプライヤーだけでなく、最初の原材料のところまで見据えた対応をしていく」と、調達先の多様化を進める方針。

家電製品や自動車に使われ、産業に欠かせないレアメタル(希少金属)は中国からの輸入が多い。日本タングステンは主力製品の原料であるタングステンについて中国にほぼ全量依存していることから、欧州と北米からの調達ルートの確保に動く。すでに欧米ルートで少量の取引実績があり、品質などを確認しているという。タングステンは価格の安さから中国産が台頭し「(欧州や米国の)鉱山自体は閉山しているが、最悪のケースになれば開くだろう」(後藤信志社長)とみる。

「(欧米の顧客から)中国での(電子部品の)生産をやめてほしいといった声が出ている」―。タムラ製作所の浅田昌弘社長は“脱中国依存”の現状をこう語る。同社は22年12月にルーマニアに生産子会社を設立。中国で生産している芝刈り機や工具向けのチャージャー(充電器)をルーマニアでも生産する予定で、地政学リスクの軽減を図る。

LIXILは米国向け水回り製品について中国などアジアからメキシコに生産をシフトした。米中対立で部品や製品の供給が滞る可能性があるためだ。現在は8割以上の製品をメキシコから供給している。瀬戸欣哉社長は「半導体や一部の部品は特定の中国企業に頼っている」とし、同部品の内製化や調査先の分散を進める。

ダイキン工業は24年3月期の重点テーマの一つに強靱な供給網の構築を掲げた。十河政則社長は「リスクに対して先手を打つ」と強調。部品調達、空調機器生産の複数拠点化とバックアップ体制を整え、供給力の強化と物流の効率化を推進。パワー半導体や磁石、電磁鋼板を重点部品に位置付け、安定調達を継続できる体制を徹底する。部品調達の複数ルート化に伴い、「中国依存度が下がる見通しだが、コストとのバランスも踏まえて対応する」(十河社長)。