便利で気軽で安心な乗り物―。カワサキモータース(兵庫県明石市、伊藤浩社長)は、2輪事業で培った技術を生かして開発した電動3輪ビークル「noslisu(ノスリス)」を市場投入した。2輪のノウハウで走行時の安定性を高め、利用者の年代を問わず事前の訓練なしで安心して乗れる。5月に発売したノスリスの電動アシスト自転車仕様は、発売後1週間で取扱店での受注が100台を超えるなど好調な滑り出しを見せている。(八家宏太)

ノスリスは2020年に川崎重工業グループ内の社内公募による新事業第1弾として選定された。ノスリス開発チームの石井宏志リーダーは開発のきっかけについて「偶然、ホームセンターで3輪自転車を見たこと」と語る。ホームセンターで担当者と話そうと待っている間に、同じく3輪自転車に興味を持った60代の来店客と話す中で、自動車以外で気軽に安心して乗れる3輪ビークルのニーズを知り、「便利で気軽で安心な乗り物」(石井リーダー)の開発を始めた。

ノスリスは電動アシスト自転車仕様、フル電動仕様の二つの仕様で開発をスタートした。特別な練習などを要しない安定性と安心感、使用する人がかっこいいと思えるスポーティーなデザインの両立にこだわった。

ノスリスの開発では、2輪車開発で培った走行時の安定性を高める設計、技術を生かした。ハンドルと車体の関係で変化する安定性を高める設計、安定性を解析する2輪車開発でのノウハウを活用。走行中の右左折時に前2輪がリーン(傾く)しながら、ハンドルでバランスを取って安定性高く走行できる独自の2輪ステア機構を搭載し「2輪自転車のような操縦性」を実現した。

安定性・安心感と、スポーティーなデザインの両立にこだわった(ノスリス開発チームの石井リーダー)

開発過程のユーザーを含めた概念実証(PoC)では、ノスリスの安定性の高さから荷物の積載ニーズが浮上。開発当時はコロナ禍で、感染対策として日用品の買い物の回数を減らす必要があったことから、コメなど重い商品を載せてもふらつかずに安定して走行できる乗り物に対する需要があった。

こうしたニーズを踏まえ、車両の前方に容積120リットルまでの積載スペースを備えた「ノスリスcargo」をラインアップした。荷物を積んでも走行時の安定性は他の二つの仕様と同様だ。

本格的な市場投入に先駆け、21年にクラウドファンディング(CF)サイト「マクアケ」で販売した電動アシスト自転車仕様「ノスリス」50台、フル電動仕様「ノスリスe」50台は即時完売。販売を通じて仕様ごとのニーズの傾向をつかんだ。電動アシスト自転車仕様は地方などの高齢者層を中心に人気で、フル電動仕様は都市部で生活する幅広い層に好評だった。

電動アシスト自転車仕様のノスリスは、カワサキモータースジャパン(兵庫県明石市)のオートバイを扱う店舗など約100店で販売を開始。メンテナンスを含めたアフターサービスも徹底する。既に取扱店から販売の好調を伝える声が上がっているという。

今後、ノスリスe、ノスリスcargoを順次発売する予定で、これらの拡販を通じて新たな用途やターゲット層の開拓を進める方針だ。