相次ぐ政府方針、市場動向にらむ

二酸化炭素(CO2)と水素を合成して作られることから「人工的な原油」とも称される合成燃料。さらには植物や廃油から作られる再生航空燃料(SAF)。これら次世代燃料の普及へ向けた新たな政府方針が相次ぎ打ち出されたことで、需要拡大を見越した石油業界の動きが加速する。原材料の安定調達やサプライチェーン(供給網)の構築といった本質的な課題に加え、需要を踏まえた拠点再編や量産体制の最適化といった事業戦略も重要になりそうだ。(編集委員・神崎明子)

ガソリン需要の減少に直面する石油業界にとってエンジンや既存の燃料インフラを活用できる合成燃料への期待は大きい。「全力で早期実現を目指したい」。石油連盟の木藤俊一会長(出光興産社長)は、政府が合成燃料の商用化目標を2030年代前半に前倒ししたことを歓迎する一方、実現に向けた課題も指摘。原料となる水素の調達やサプライチェーンの構築はもとより、CO2の削減効果を反映した脱炭素価値を適切に評価するルール作りも不可欠で、「国や自動車業界とも連携していきたい」と意欲を示す。

5月末、初の国産合成燃料を使った自動車のデモンストレーション走行を行ったENEOS。同社は合成燃料について30年までに大規模な製造技術を確立する計画で、合成燃料と植物などを原料とするバイオ燃料、ガソリンを混ぜた「低炭素ガソリン」として順次、展開する構えだ。その低炭素ガソリンをめぐっては、27年ごろからの供給開始との当初目標を自動車メーカーの販売戦略などもにらみつつ、前倒しする可能性を示唆する。

出光はまずは原料となるCO2を海外プロジェクトに供給し、ここで製造した合成燃料を輸入する戦略を描く。将来的には再生可能エネルギーを活用しやすい北海道の製油所で純国産の合成燃料を生産することも視野にある。

国内空港で航空機に給油する燃料の1割を30年にはSAFとすることを石油元売りに義務付ける政府方針が示されたことも、早期の量産確立やサプライチェーンの構築を迫る。義務化に伴う年間需要は171万キロリットルと想定されるが、海外では先行して航空燃料への混合などの義務化が進み、原材料の争奪戦が激化している。

国産SAFの大規模プラントを建設するコスモ石油の堺製油所

コスモ石油は日揮ホールディングスなどと共同で、堺製油所(堺市)内に国内初となる国産SAFの量産プラントを着工した。24年度内の稼働開始を見込んでおり、100%国産の廃食油を原料としたSAFを年間3万キロリットル生産する。

SAFをめぐってはENEOSも和歌山製油所(和歌山県有田市)での26年度の生産開始を目指しているほか、三菱商事と国内サプライチェーンを作る計画もある。出光は千葉事業所(千葉県市原市)で26年までに生産開始を目指すほか、他の拠点での生産も検討。年50万キロリットルの量産体制を構築する構えだ。

一連の計画は製油所が脱炭素の拠点として生まれ変わる意味を持つ。既存の石油製品需要や次世代燃料市場の離陸動向を見極めながら各社は量産体制の最適化を目指す。