大気から二酸化炭素(CO2)を分離回収する直接大気捕集(DAC)の市場が立ち上がる。米国のDACベンチャーはカートリッジビジネスを仕掛ける。DACプラントの建設では利益を追求せず、CO2吸収材のカートリッジを提供して継続的に稼ぐモデルだ。DACは数年前まで採算が取れないと評価されていた。だが各国の政策の後押しを受けて急加速し、事業化が進んでいる。(小寺貴之)

米、消耗品で稼ぐモデル

「2年前は『2040年にまた来てください』と言われた。今は早く欲しいと急かされる」と、グローバルサーモスタットジャパン(東京都千代田区)の立野智之マネージングディレクターは商談での変化に苦笑いする。立野マネージングディレクターは米グローバルサーモスタット(GT)の日本法人代表を務める。GTのDACシステムは固体式のCO2吸収材が特徴だ。セラミックス担体にアミン化合物を成膜してCO2を吸収させる。これを蒸気で温めてCO2を放出させ回収する。

放出時の熱効率が高く、大気のようにCO2濃度の低いガスから回収する場面に向く。一方で0・04%しかないCO2をこし取るために大量の空気を循環させる。そのためのファンを回す電力が必要だ。これを再生可能エネルギーでまかなわないとDACを稼働させるためにCO2を排出することになる。

そのため再生可能エネルギーの安い中東などでしか成立しないと指摘されてきた。40年は日本の風力発電の整備目標年に当たる。同社の菊池英俊マネージングディレクターは「廃熱を活用できれば日本にもチャンスはある」と説明する。GTのシステムは投入エネルギー4分の3が蒸気を作るための熱が占める。これを工場の廃熱や地熱などでまかなえればコストを大幅に削減できる。立野マネージングディレクターは「90―100度Cの廃熱がほしい。温度が低く、捨てられている温度帯」と指摘する。プラントの設計や建設はパートナーと協業し、GTは吸収材のカートリッジで稼ぐ。

RITE、実用化急ぐ

日本勢も健闘している。地球環境産業技術研究機構(RITE)が60―70度Cで機能するアミンを開発した。まだ研究室規模だが廃熱利用の幅が広がる。RITEの余語克則グループリーダーは「量産性など実用化を急ぎたい」と力を込める。

これは内閣府や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のムーンショット型研究開発事業での成果だ。4年前に同事業が始まったころは再生可能エネルギーが余るほど安価に大量供給されないと成立しないとされた。そのためムーンショットという長期事業として認められた。

だが米国でカーボンクレジットが始まり、DACのようにCO2を除去するクレジットはCO2排出を節約するクレジットの2―3倍の値を付けて投資を促すようになった。それでも供給が足りないと、CO21トン当たり1000ドルや同2000ドルといった高値で予約購入されている。これで市場関係者の目の色が変わった。米GTのポール・ナヒ最高経営責任者(CEO)は「25年が転換点。何十億ドルもの資金が市場に解き放たれる」と断言する。

米国では技術開発はベンチャー投資のリスクマネーが支え、市場の立ち上げで巨額の政策投資が加わる。日本にもこうした事業者を追いかける仕組みがなければ競争さえできない状況になりつつある。