名門復活に向けて、東芝が再スタートを切った。16日公表の2027年3月期を最終年度とする中期経営計画では最大4000人の人員削減などを通じて全社の収益性を抜本的に改善し、売上高営業利益率(ROS)を現在の1・2%から10・1%への改善を目指す。ただ、東芝を待ち受けるのは巨額債務の返済と成長戦略の両立という難路であり、道は依然として険しい。(編集委員・小川淳、新庄悠、小林健人)

技術・サービス磨きROS10%達成

※自社作成

15年発覚の不正会計問題や米国の原発事業での巨額損失をきっかけに経営の混迷が続いていた東芝は事業の切り離しなどが相次いだ。売り上げが大きく減少したが、結果として間接部門の人員は維持されていた。同日中計を発表した島田太郎社長は「状況が解消されずに今まで続いてきた。(人員の)適正化はどうしても必要なことだ」と理解を求めた。

東芝は満50歳以上の間接部門の社員を中心に早期希望退職を募集する。11月までに国内従業員数の約6%に相当する最大4000人の人員を削減する計画だ。

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また、東京・浜松町の本社機能を川崎市の研究開発拠点がある川崎本社に25年9月までに集約するほか、東芝エネルギーシステムズなど主要4子会社を再吸収する。「事業部門と研究開発部門が一体となって事業を推進する」(島田社長)ことにより、業務内容の効率化を目指す。

これらの施策を通じ、27年3月期に24年3月期比で5%の固定費を削減するなどして、「筋肉質化による損益分岐点の引き下げ」(池谷光司副社長)を実現する。

中計で最大の目標に掲げているのがROS10%の達成だ。ただ、同日公表した24年3月期の営業利益(米国会計基準)は399億円にとどまり、ROSは1・2%に過ぎない。目標とは乖離(かいり)がある。池谷副社長は「課題とされている事業は適切な対応をとることで大幅な収益改善ができる。技術や製品、サービス、こういう本質的な部分において劣っているわけではない」と自信を見せる。

東芝は投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)陣営による提案を受け入れ、23年12月に非上場化した。「物言う株主」が去り、経営の混乱に終止符を打ったものの、2兆円超の買収資金のうち、銀行団からの融資で賄った総額約1兆4000億円(運転資金含む)の返済義務を東芝は負う。早急な収益力の改善は必達の目標であるものの、実現には不透明感が漂う。

脱炭素・量子技術で成長実現

一方、中計では得意とするエネルギーやインフラ領域、パワー半導体などデバイス領域の収益改善と成長を重視する姿勢を見せたものの、具体的な成長戦略は描かれておらず、迫力不足は否めない。中計の3カ年は構造改革を達成して収益力を高めることで脱炭素や人工知能(AI)、量子技術などの分野で中長期的な成長を実現していく方針だが、再上場のためにもより詳細な計画を示すことが求められる。

パワー半導体、強化分野に/ロームと提携は「検討」

パワー半導体の主要生産拠点である加賀東芝エレクトロニクス(石川県能美市)

東芝は半導体事業を強化分野に位置付ける。パワー半導体は電気自動車(EV)向けに需要が伸びると予想される。子会社の加賀東芝エレクトロニクス(石川県能美市)が新工場を建設中で、シリコンパワー半導体を25年3月から増産する計画だ。同計画は東芝に出資するロームとの共同生産事業で、経済産業省が最大1294億円を補助する。

ロームは3月、日本産業パートナーズ(JIP)に対して、東芝の半導体事業との業務提携強化に向けた協議開始を提案したと公表した。8日の決算会見で、ロームの松本功社長は「6月から実際の交渉を始め、1年程度かけて交渉を行っていきたい」とし、「東芝(の半導体事業)とは親和性が高い」と意欲を見せた。今後、パワー半導体の製造以外に協力関係を広げることで、調達や投資の効率化が期待できる。将来は半導体事業での資本提携も視野に入れた協議を進めるとしている。

中計の説明会で、東芝の池谷光司副社長は「ロームとは株式の非公開化前から、さまざまな協業の可能性を検討してきた。その中で(ロームの提案を)検討していきたい」と述べるのにとどめた。

パワー半導体は市場伸長が期待され、各社の投資が活発だ。東芝がロームと組めば、投資負担を抑えられるメリットは大きい。ただ強化分野と位置付けるように、東芝にとって半導体事業は虎の子の事業の一つ。両社が資本提携まで進むかは不透明感が残る。


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