NTT法見直しに関し、電話のユニバーサル(全国一律)サービスに関する議論が大詰めを迎えている。KDDIとソフトバンク、楽天モバイルは、電話を全国あまねく提供するNTTの責務を当面維持し、電柱や局舎など国民負担で整備したNTTの“特別な資産”を明確に保護する必要性を示した。一方、有識者はブロードバンドの全国一律サービスの中に電話を吸収し、NTTの責務を電話のあまねく提供から最終保障に変更する意見が出ている。(編集委員・水嶋真人)

「メタル固定電話を必要とする利用者が残存する。利用者保護のため、あまねく電話の提供義務は当面維持するべきだ」。KDDIの岸田隆司執行役員常務は、17日に開かれた情報通信審議会(総務相の諮問機関)の作業部会で利用者目線に立った議論を求めた。

固定電話は2010年代からメタル設備を使ったメタル電話から光IP電話への移行が進んだ。KDDIの資料によると、メタル固定電話の契約数1468万に対し、光IP電話は約3倍の4568万ある。NTTは老朽化により35年にもメタル設備を縮退する方針を示しており、今後もメタル固定電話契約数の減少が見込まれる。

このため、NTTは35年にメタル固定電話の契約数が500万に減ると試算した。この試算をもとに、35年に電話を全てNTT東西の光回線電話で「全国あまねく提供」した場合は年770億円の赤字が発生すると予想。携帯通信を用いたワイヤレス固定方式と光回線電話のいずれかを保障する「最終保障方式」では年間赤字額を30億円に減らせる見通しを示していた。

これに対し競合他社は、35年のメタル設備縮退までの円滑な移行計画をNTTが示しておらず「移行計画によっては試算値は大きく変わる。500万回線を前提とする赤字額は過剰な試算だ」(KDDI)と反論。ソフトバンクも「メタル設備縮退計画の開示が必要だ」とし、当面はNTTへの電話のあまねく提供責務を維持しつつ代替サービスへの丁寧な移行を求めた。

作業部会の構成員を務める名古屋大学大学院法学研究科の林秀弥教授は「あまねく提供を維持することが利用者の利便性確保の点から理念としてあるべきだ」と指摘する。ただ、利用者減で持続可能な効率的な仕組みも必要だとして「NTT東西だけでなくNTTドコモなどNTTグループ全体で事実上あまねく提供を実現可能であれば、最終保障責務に変更することも否定できない」と述べた。

NTT東西は、NTTドコモの携帯電話網を用いた無線による固定電話「ワイヤレス固定電話」の提供を山村などの特別な地域に限定して4月に始めている。利用地域拡大やファクス機能の除外で運用コストを削減できるワイヤレス固定電話の活用も選択肢となりそうだ。