不二越の工作機事業部は、ブローチ盤や転造盤、専用マシングセンタなど自動車産業向けの工作機械を主に手掛ける。幅広い工程をカバーできる設計・製造技術をもち、工具やロボットなど他部門との連携で、顧客の困りごとに対応する商品開発を得意とする。長年、特定部品のための専用機を主力としてきたことから、工程設計や工具選定、条件設定など、部品加工に必要な生産技術をトータルで担える点も強みだ。そんな同社が2016 年に発売したスカイビングギヤシェープセンタは、自動車以外の市場を切り開こうと投入した新シリーズ。さまざまな歯車に対応できる複合加工機で、電気自動車(EV)市場へも訴求する。新たな挑戦を始めた工作機械事業のこれからとこれまでについて、商品開発を担う2 人に聞いた。

─100 年近い御社の歴史の中で、工作機械事業がどのように発展してきたのかを聞かせてください

川端 当社は工具の国産化を目指して1928 年に創立した会社です。当初、工具の製造に使う材料や設備はすべて欧米からの輸入品でしたが、「材料を自社開発したい」、「設備も自分たちの使いやすいものにしたい」との思いがあり、38 年に特殊鋼、翌39 年に工作機械の内製をスタートしました。その後、工作機械の国産化を目指す政府の方針の下、社外向けにもブローチ盤や研削盤を製造するようになります。これが、工作機械事業が1 つの部門として独立するきっかけになったと聞いています。

戦後は自動車産業向けの大量生産マシンに照準を合わせて商品開発を進め、事業規模を拡大させました。大量生産に適した最たるものがブローチ盤です。ブローチ工具を使い形状を加工するブローチ盤は、作業者の熟練を必要とせず、工具の寿命が尽きるまで安定して精度良く加工できるという特徴から自動車産業で重宝されました。同じく自動車産業向けの商品に、60 年代から生産を開始したトランスファーマシンがあります。これは、複数の専用機の間を搬送装置でつなぎ、ワークを搬送しながら穴あけやフライス加工、ボーリングなどさまざまな加工を行う装置で、長いものは40m もありました。

─トランスファーマシンではどのような部品を加工していたのですか

川端 クランクシャフトやシリンダーヘッド、コンロッドなどのエンジン部品です。一方、車種が増え、部品が多様化するにつれて、トランスファーマシンの限界が指摘されるようになりました。1つの部品を大量に加工するのが得意な半面、部品の種類が変わるごとに専用機を入れ替えなければならず、膨大なコストが発生したからです。そこで70 年代に入り、個々の専用機をマシニングセンタ化して、複数の部品を加工できるような設備の開発に取り組み、2000 年頃には自動車メーカーで本格的に使われるようになりました。現在、当社で「マシニングセル」と呼ぶ商品がそれに当たります。

─ 2000 年頃まではトランスファーマシンが主力商品だったのでしょうか

川端 はい。生産台数ではブローチ盤がトップでしたが、トランスファーマシンは1 台当たりの価格が桁違いでした。現在は、ブローチ盤と転造盤、マシニングセルが主力です。ほかに、スカイビングギヤシェープセンタや研削盤、パワーフィニッシャなどをラインナップしています。研削盤は社内向けがほとんどですが、生産台数は多く、隠れた主力商品となっています。

焼入れ後の高硬度材加工に対応したハードブローチ盤 「HW-5008」

顧客に代わり生産技術を担う

─さまざまな商品をラインナップされていますが、御社の工作機械の強みは?

工作機技術部 部長 川端光弘氏

川端 焼入れ前の荒加工や焼入れ後の仕上げ加工などの幅広い工程に対して、高精度・高剛性な設備をつくるための設計技術、製造技術を保有している点がまず挙げられます。社内の工具部門やロ ボット部門、ベアリング部門と連携したトータルな設備の提案も得意としています。「この機械がほしい」という要望に、「こういう工具、こういう設備で加工すればより効率化できます」といった提案が可能です。

─トランスファーマシンのような専用機の製造で培った強みもあるのでは?

川端 非常に大きいですね。トランスファーマシンの設計では、1 枚のワーク図面を基に当社で工程設計や工具選定を行っていました。自動車メーカーの生産技術部門が果たす役割を、当社が担っていたことになります。生産技術部門の役割を果たさなければ受注が不可能な商品だったのです。ここで培ったノウハウはスカイビングギヤシェープセンタの開発にも活かされています。スカイビングカッタを製造する工具部門と連携しているほか、顧客の求めるサイクルタイムや加工精度を実現するためにどのような条件、方法で加工すればいいのかまで提案できるよう取り組んでいます。

新市場の掘り起こしへ新商品

─スカイビングギヤシェープセンタは2016 年に発売された、御社の中では比較的新しい商品です。開発の理由は?

川端 自動車産業向けの商品開発に注力してきた中で、それ以外にも売れる機械をつくらなければという危機感が募ってきたのが発端です。開発にあたっては、工具部門と連携できる機械でないと差別化できないだろうと考え、当社が得意とする歯切り工具を使う機械に焦点を絞りました。当時、歯切り工具を使う機械として当社がラインナップしていたのは自動車産業向けのブローチ盤と転造盤のみで、ホブ盤やシェービング盤の製造からはすでに撤退していました。

一方、スカイビング加工に関しては30 年前に大学向けのテスト機をつくった実績があり、その当時から工具やNC 制御装置が進歩して実用化の機が熟していました。歯車加工機であれば自動車以外の分野でも需要が見込めます。そこでまず、建機市場をターゲットにφ450mm までの大型ワークに対応したスカイビングギヤシェープセンタ「GMS450」を2016 年に発売しました。その後、 市場規模の大きい自動車産業にも訴求するため、対応可能なワーク径を小さくし、φ220mm までの「GMS200」、φ40〜100mm の「GMS100」とラインナップを増やしてきました。

多彩な加工が可能なスカイビングギヤシェープセンタ 「GMS100」

─ GMS シリーズのコンセプトは?

蒲地 スカイビング加工だけでなく、旋削や穴あけもできる複合加工機として開発しました。スカイビング加工と言えば専用機が主流だった中、マシニングセルの製造で培ったATC(自動工具交換装置)の技術を応用してGMS シリーズに組み込み、独自色を出しています。

─改めて、スカイビング加工とはどんな加工方法なのでしょうか

蒲地 円盤状のスカイビングカッタを使う加工法です。ワーク軸と工具軸が対向した状態から片側を傾けて交差角をもたせ、ワークと工具を同期回転させながら、ワーク軸方向に工具を送っていくことで歯車を加工します。ワークの1 歯とカッタの1 歯がかみ合いながら回転し、1 歯ずつ加工が進みます。

─ホブ盤やブローチ盤などほかの歯車加工機との違いは?

蒲地 スカイビング加工では内歯車・外歯車の両方を加工できますが、ホブ盤では外歯車しか加工できません。半面、スカイビング加工に比べて加工スピードが速いのがホブ盤の強みです。ブローチ盤は、加工スピードは速いのですが、工具が高価で、加工精度が工具の精度によって決まるという特徴があります。対して、スカイビング加工では加工条件やワーク軸と工具軸の相対的な動作を変えることで歯車精度を調整できます。スカイビング加工には段付き歯車の加工が得意という特徴もあります。ほかの歯車加工法に比べて、工具が抜ける側のスペースが少なくて済み、歯車の厚みと少しの抜き代があれば成立するからです。同じく段付き歯車を加工する機械にギヤシェーパがありますが、ギヤシェーパよりもスカイビング加工の方が高能率に加工できます。

─それぞれ得意不得意があるのですね。

蒲地 ええ。それもあって、2022 年に投入したGMS100 ではスカイビング加工に加えてホブ加工を可能にしました。外歯車をホブ加工で素早く加工し、ホブ加工ではできない内歯車や段付き歯車の小ギヤをスカイビングで加工することで効率化を図れると考えています。

─ GMS シリーズの開発で大変だったことは?

工作機技術部 開発設計 スカイビングプロジェクト 蒲地貴也氏

蒲地 歯すじ方向に膨らみをつけるクラウニングに代表される、歯車の細かな形状を実現するためにワーク軸と工具軸をどう相対的に同期させて動かすか、その機械制御の部分で苦労しました。また、ユーザーが希望する加工を簡単に行えるように、スカイビング加工用の対話画面をオプション機能として開発しています。ワーク形状やカッタ形状、加工条件などを入力すると、加工プログラムが自動生成される機能です。専用機を主力としてきた当社では本格的な対話画面は初めてだったため、かなり苦労しました。

EV 化への対応に注力

─歯車加工機に関する開発テーマを教えてください

川端 自動車がEV 化する中で、歯車に対しては高精度・高能率に加えて静音化の要望が強くなっています。静音化には精度だけでなくギヤ形状もポイントになるので、ここに対応できる歯車加工機を開発中です。詳しいことは申し上げられませんが、歯車自体のつくり方を変えていかないと今後、お客様の要求を満足することができないと考えています。そこで、どんな加工をすれば良い歯車になるかを念頭に置き、設備開発を進めています。

─工具部門とも連携を?

川端 もちろんです。工具あっての工作機械ですから。「こんな動きをする機械をつくったから、それに合った工具を開発してほしい」と要望しますし、逆もあります。最終的にはお客様に喜ばれ る商品を提供できるかどうかがすべてです。両部門の技術部は同じフロアで仕事をしているので、日常的に話し合える環境が整っています。

蒲地 別の視点で意見を言ってもらえるのがありがたいですね。工具部門のスタッフから「機械のここが悪いから調べてみて」と言われて、「ああそうか」と気づく。こちらからも「工具のここが悪いのでは」と疑問を投げかけます。そうしたやり取りの中から新しい発想が生まれ、お客様に満足してもらえる商品に育っていくのだと思います。

─工具部門との緊密な連携は御社の強みですね。 では、10 年後どんな工作機械が求められると思いますか

蒲地 確実に言えるのは、「お客様の要求する加工精度が当たり前に出る機械」が10 年後も求められるということです。言い換えれば、「手間のかからない機械」、「思いをすぐに実現できる機械」です。歯車加工では、より複雑な形状、高度な要求が出てくるでしょう。お客様が新しい歯車の加工に取り組む際、最適な工具や加工条件を自動で教えてくれる機械が重宝されると思います。また、この方法は、われわれの業務の効率化にも応用できます。現在当社では、お客様へ商品を提案する前に、テスト加工を何度も繰り返して、精度や問題点を検証しています。このテスト加工で得られた膨大なデータをスカイビング加工向けに開発したプログラム自動生成機能に落とし込み、活用することで、テスト加工自体を省力化できるのではないかと考えています。

─ユーザーメリットだけでなく、御社の側の効率化につながる面白い着眼点ですね。最後に、工作機械の開発で御社が大切にしている姿勢を教えてください

川端 商品開発では、お客様のニーズ、困りごとに応えることを第一に考えています。つくり手優先のプロダクトアウトではなく、顧客優先のマーケットインを目指して業務に取り組んでいます。 また開発に携わる者として、お客様の声を聞く姿勢を重視しています。開発者が机の前でいくら考えても、いいアイデアは浮かびません。お客様の言葉がヒントになり、新しい商品や加工技術が生 まれるのです。さらに設計者としては、加工の原理原則をきちんと理解したうえで設備を設計することも大事にしています。困難に突き当たったとき、原理原則を自分のものにしておかなければ、良い設備はつくれません。最後に、お客様に熱意・誠意・スピードをもって対応すること。今まで大切にしてきたこれらの姿勢を、これからも大切に守っていきます。