富士フイルムホールディングス(HD)は、温室効果ガスの排出を伴わない“脱炭素燃料”を高機能材料の生産拠点である神奈川事業場足柄サイト(神奈川県南足柄市)に導入する。2020年代半ばに運用し、30年度には温室効果排出量ゼロを達成する。エネルギーを大量に使う素材産業にとって難問である脱炭素への“解”となりそうだ。

脱炭素燃料は再生可能エネルギーを活用して製造した水素と回収した二酸化炭素(CO2)を材料とする合成メタン。そのメタンを燃焼し、足柄サイトの操業に必要な熱と電気を賄う。

執行役員ESG推進部長 吉澤ちさと氏に聞く

富士フイルムHDは3月末、東京ガス、神奈川県南足柄市と共同で計画を発表した。合成メタンを作る「メタネーション」は脱炭素技術として有望視されており、東ガスが推進している。先陣を切って脱炭素燃料を活用する狙いを富士フイルムHDの吉澤ちさと執行役員ESG推進部長に聞いた。

―素材産業の脱炭素が難しい理由は。
 「素材産業は蒸気や高熱を必要とする工程があり、燃料が不可欠。燃料が変われば生産で使いこなす技術も必要となる。電力利用が多い組み立て産業とは違った難しさがある」

富士フイルムHDの吉澤ちさと執行役員ESG推進部長

―足柄サイトへの投資額は。
 「まだ、しっかりと試算できていない。投資額ではないが、CO2を費用とみなすインターナルカーボンプライシング(社内炭素価格)の導入を準備中だ。排出量1トンを1万1000円と値付けすると、当社グループの負担は100億円超。国内拠点で最もエネルギーを消費する足柄サイトを脱炭素化できれば、追加費用を軽減できる。合成メタンを扱う技術を獲得できるので、先行投資として考えると合理的だ」

―コスト削減よりも気候変動対策を評価する流れもあります。
 「経営トップは、脱炭素をグローバルビジネスへの参加資格と言っている。サプライチェーン(供給網)全体で排出ゼロを目指すと宣言した顧客との取引継続には、当社も整合する目標を掲げて行動しないといけない。投資によって短期的に利益が減るかもしれないが、取引先と売上高を失う方がステークホルダーに申し訳ない」

―再生エネ証書やクレジットを購入して排出量を帳消しにする手段もあります。
 「当社は技術にプライドを持ったメーカー。排出を伴わない燃料の社会実装が課題であり、技術面からも挑戦しようと思った。それに証書などは買い続けないといけない。合成メタンのコストが下がると、当社にも社会にも恩恵がある。海外に偏在する化石燃料に依存するよりも、日本で入手可能な資源を使うとエネルギー価格の安定が期待できる」

【記者の目/国産エネ利用のモデルケース】
 「まずは小規模な拠点から」というのが、新技術を試す通常パターンだろう。富士フイルムHDは最もエネルギーを消費する拠点から導入する。同社の排出量が大幅に減り、気候変動対策で他社をリードできる。いま、海外に資源を依存するリスクが浮き彫りになっている。計画通りに実現し、国産エネルギー利用のモデルとなってほしい。(編集委員・松木喬)