大学の理工系における性別の偏りをなくすため、通常と別の選抜法による「女子枠」を導入する大学が急増している。このトレンドをリードしたのは東京工業大学だ。「2024、25年度に計143人の女子枠を導入し、学士課程の女子比率を約13%から20%以上にする」と22年秋に発表。学内外で噴出した批判に対し、誤解を解くために実施した手だての面でも、先進の事例となっている。(編集委員・山本佳世子)

東工大の女子枠導入計画

東工大の女子枠は各学院(学部に相当)がふさわしいと考える形で設計され、今春の志願者倍率は平均4・6倍となった。物質理工学院は英語と理科の配点を他学院より重視し、20人の募集に6・4倍が志願。一方で情報理工学院は高校時代の情報数理の活動実績を重視し、14人の枠に2倍弱の志願があったが入学は12人で、定員を余す形となった。

女子枠は筆記の学力試験による「一般選抜」ではなく、「総合型選抜」や「学校推薦型選抜」などで行われる。旧帝大や女子枠設置前の東工大でも1割ほどで設定しているのが現状だ。

教育担当の井村順一理事・副学長は「こういった多様な形の入試で選ばれた学生は目的意識がはっきりしており、入学後の活躍度も高い」と、この選抜法のよさを説明する。益一哉学長も「総合型選抜を落ちて一般選抜で入学した学生もいる」と、意外な側面を紹介する。

しかし発表直後からの反対の声は強かった。一般選抜を重視する女子を含む在校生や卒業生らが、「大学の学力レベルが下がる」「男子の逆差別だ」と反発したのだ。これは「社会的な障壁を除くための合理的理由」による「選抜区分を分けた実施」という入試形態であることが、伝わっていなかったためだ。

同大は教職員向けに、学長の動画配信やアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)研修を活用し、受講率を8割弱と高い比率まで持っていっている。

益学長は自ら女性教員と、53歳以上の男性教員と、それぞれに向けた計5回の説明会に出向いて、考え方を説明した。また「学生を呼ぶのに『君』を使わず、男女問わず全員を『さん』付けで」「教室を見渡して『今年は女子が多いな』といった発言は適切でない」など、具体的な注意点も冊子などで伝える。

学生に対して効果的だったのは、近年の教育改革によるリベラルアーツ(教養教育)の授業で、女性差別の歴史的背景など学んだ上で、討議を展開したことだ。

「変化に驚いて疑問を持っていたが、実は思考できるほどの知識がなかった」「新たな枠を設けて女子学生を増やすことに、意味があると理解した」などの気付きが寄せられたという。

「入試ルールなど丁寧に説明し、対話をすることが重要だ」と、ダイバーシティー推進を担当する桑田薫理事・副学長は実感する。過去を振り返り現状把握をし、将来を考える姿勢を、身に付けてほしいと考えている。

ポイント
全学(大学院含む)の女子学生比率は元々、91年の4・8%から22年に17・1%と自然な向上があった。しかし変化スピードが遅いことは、イノベーションを重視する理工系大学にとって見過ごせない問題だ。