―[鈴木涼美の連載コラム「8cmヒールで踏みつけたい」]―

5月8日、日本最大級を謳う有名ハプニングバー「眠れる森の美女 Sleeping Beauty」(東京都渋谷区)の経営者・広瀬理基容疑者(40)とスタッフ、利用客ら10人以上が逮捕された。利用客の男女2人は公然わいせつの現行犯逮捕。広瀬容疑者と従業員は公然わいせつほう助の疑いが持たれている。

◆愛のあるセックスがなんだ

「サ活」「ととのう」などの言葉が一般化したここ数年のサウナ人気は異様だが、日本におけるサウナ発祥の地とされるのは戦後間もなく開業した「銀座センター 東京温泉」だ。とはいえ現在のサウナーたちが通うフィンランド式サウナができるのはまだ先で、ここにあったのは箱型の蒸し風呂(黒ひげ危機一発のように四角い箱から顔だけ出して身体を蒸す仕組み)。

劇場やキャバレーも併設する豪華な施設の大きな看板には「トルコ風呂・温泉のデパート」という文言が。ウリは、黒ひげたちが蒸し上がったところでシュミーズ姿の女性がマッサージしてくれるサービスだった。サウナ発祥の地は、ソープランド発祥の地でもある。

当然すぐに怒られる。開業は1951年、サンフランシスコ講和条約の年である。この辺りの経緯は草彅洋平『日本サウナ史』に詳しいが、各国から賠償請求されまくっている敗戦国として国際的イメージアップに努めたいのに、銀座のど真ん中に男の天国みたいな施設ができ、しかも仕掛け人が米当局から戦犯追及を受けていた闇の人物。

実は当時のマッサージ自体は清らかなものだったようだが、多くの市民が貧困に喘いでいた頃、派手で高額なサービスは批判された。開業一年を待たずして、新聞見出しには「廃業勧告」の文字が出て、その後も脱税などで槍玉にあげられた。

ただし、売春防止法案の成立が噂されていた時期でもあるため、トルコ風呂は全国に広がり、性器マッサージや本番など一部の店で過激なものになっていった。後に「トルコ風呂」の名称はトルコ人留学生の抗議を受け、ソープランドに改められる。

放っておくとこの国の娯楽はすぐエロさを取り込みたがり、闇の人物が首謀しがちで、常に批判はされるんだけども、豊かな発想の建前によって黙認され、どんどん過激化し、時折本丸じゃないっぽい理由で摘発される。この構図は現在まで続く。

建前の巧妙さが伝統芸能級のエロ業界が問題を孕んでいるのは確かだ。善良なエロ業者と悪質業者の区別がつきにくく、事件被害者が告発しづらく、逮捕や摘発は恣意的に見えざるを得ない。しかし悪い奴が湧きやすい業界ゆえ、謎なタイミングや理由であっても、時々取り締まりを強化するのは社会浄化のギリギリの知恵でもある。

渋谷の超大型ハプニングバーが摘発された。ハプバーは人のセックスを見たり、人にセックスを見せたり、特殊な性癖を分かち合ったりする、いかがわしさの塊のような場所なので、公然わいせつ罪や同幇助を詳しく知らなくても「何違反かはよくわからないが厳密には多分アウト」と多くが思っている。

しかし黙認されているので摘発されると当然「なぜ今?」と、恣意性を感じる。しかもハプバーはAVなどに比べて否定の論理が見つけづらいので、AV新法の批判に忙しい人権系インフルエンサーたちには見向きもされず、反応しているのは同店に甘い思い出のある愛好家たちだけで、見せしめ逮捕だという恨み節も多い。

実際にはハプバーに搾取構造がないと言い切れるかは微妙で、サクラのバイトを雇っている例もあったし、愛と合意のあるセックスを理想とするならほど遠い。非常に古い管理売春を前提とした売春防止法などによって建前と現実が乖離し続けているうちは、愛好家たちに嫌われながらエロ業界を時折掃除するのは、風紀委員の仕事としてはそう間違っていない気もする。

憶測で恣意性を指摘されて嫌われるのが嫌なら、やはり広義の売春の法制化と、現実と乖離しない形のエロ関係の法整備を、今度は人権派に嫌われながらするしかない。
※週刊SPA!5月17日発売号より

【鈴木涼美】
’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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