―[あの企業の意外なミライ]―

◆スシローの一人勝ち「終わりのはじまり」

 回転寿司チェーンにおける不動の1位と言えばスシロー。これが近年の変わらぬ認識となっています。しかし、生き馬の目を抜く回転寿司チェーンにおいては、日々し烈なシェア争いが繰り広げられています。業界トップを走るスシローといっても、決して安泰ではないのです。
 
 今、スシローに続いて業績が好調なのがくら寿司です。くら寿司の追い上げとスシローの現在地から回転寿司業界の動向をご紹介します。

 圧倒的な強さを誇っているように見えるスシローですが、直近の業績は伸び悩んでいます。決算資料からスシローの既存店舗の売上高を見ると、直近の2022年1月から4月では、4月以外の3か月間は前年同期比を下回っているのです。

 その理由には感染者の増減の影響も考えられますが、一方のくら寿司の同時期の売上高は3か月が前年同期比超え。特に1月は123.5パーセントと前年を大きく上回っています。

 つまり、勢いはくら寿司にあるのです。伸びるくら寿司、伸び悩むスシロー。この構図は今後も続く可能性があります。

◆くら寿司、過去最高益を更新

 スシローが5月6日に発表した2022年の最終的な業績予想における営業利益は昨年比34%減(87億円)。昨年11月段階の予想では27%減だったのですが、より厳しい見通しに下方修正しています。

 スシローの厳しい業績予想の背景にあるのは、ロシアとウクライナの戦争による海外水産物仕入れに必要なコストの増加。しかし、仕入れ高の高騰という面では同じ条件のくら寿司を見ると、直近の第1四半期の経常利益が26億円5600万円と、6期ぶりに過去最高を更新。営業利益の来期予想を見ても51.4%増(28億円)です。

 くら寿司の業績と比較すると、スシローの不振は「コロナのせいで…」「ウクライナの戦争のせいで…」と言い訳がきかないのです。とはいえ、まだまだ両者の営業利益には差があり、単純に数字だけを見るとスシローの方が強いのも事実。しかし、今後くら寿司が追い抜く可能性も否定できません。では、なぜ今くら寿司が好調なのでしょうか。

◆グローバル戦略とコラボ企画。スシローを抜く勢いのくら寿司

 くら寿司の好調を支える要因のひとつにコラボがあります。大ヒット作となった『鬼滅の刃』とのコラボは計7回も実施。家族連れなど、オリジナルグッズを目的に多くの人が来店しました。

 また直近では『名探偵コナン』とのコラボも話題となりました。ほかにも、くら寿司は人気アニメとのコラボに意欲的で、この点が集客の強みのひとつとなっています。

 もちろんコラボだけでなく、肝心の寿司においてもこだわりが光ります。

 特に好評なのが「かにフェア」です。

 昨年から高騰が続いている「かに」ですが、くら寿司では「本ズワイガニ 二種盛り軍艦」「特盛 かににぎり」などが220円、この他にもカニをふんだんに使用したメニューを安価な料金で提供。「かにフェア」は昨年11月から3月までで3回展開されました。

 もう一点、今後のさらなる飛躍まで見据えて注目すべき動きがあります。

 3月31日に世界最大の店舗面積となるくら寿司スカイツリー押上駅前店がオープンしました。

 スカイツリー押上駅前店は、他の店舗よりも内装などで和のテイストが強いグローバル旗艦店という位置づけもあります。今後のインバウンド需要の復活までを視野に入れた出店です。また、グローバル旗艦店は、スカイツリー押上駅前店の他にも原宿、道頓堀、浅草ですでに出店しています。

 今後の海外からの旅行客の回復までを見込んだくら寿司の中長期的な戦略のひとつです。これらのコラボ、グローバル戦略はスシローよりも先進的かつ勢いがあるというのが筆者の考えです。

◆味が“やりすぎ”のスシロー

 では、攻勢に出るくら寿司に対し、スシローはどのような施策を打っているのでしょうか。明るいニュースではないですが、スシローは今年10月から100円皿が110円に値上げするという発表は大きな話題となりました。

「一皿ひゃくえん!スシロー!」

 あの中川家礼二さんのモノマネでおなじみのCMも内容が変わるかもしれません。

 当然消費者としては値段は安いほうがよいですが、SNSでは「残念だけど仕方がない」など値上げを擁護する声も多くありました。

 基本的なスタンスとして、スシローは寿司そのもので勝負する傾向があります。

 直近でも大間の本マグロや大トロをリーズナブルに提供する「絶対王者スシローの鮪まつり」や、過去に人気だったネタが復刻する「100円祭り」などのフェアを開催し、好評を博しました。ほかにも、公式アプリに人気漫画『将太の寿司』の作者寺沢大介先生のオリジナル寿司漫画を掲載したり、富山の名店「鮨し人」の大将・木村さんや、代々木上原のミシュラン店sio鳥羽シェフとコラボした「すき焼き海鮮しゃり弁」など、 “やりすぎ”ともいうべき料理への力の入れようなのです。

「味のスシロー」、これは間違いなく言えると思います。

 中長期的な視野としては、テイクアウト事業もスシローが強化しているポイントです。昨年買収した京樽の設備と店舗を活用し、特に首都圏においてデリバリー対象店舗やテイクアウト専門店を増加させています。

 両者の動向を見て、最も気になるのは「くら寿司がスシローを追い越す時はくるのか」という点ではないでしょうか。

 この点を検証する上で見ておきたいのが足元の強さです。あるいは、この点にこそスシローの王者たる所以であるとも言えるかもしれません。

◆くら寿司がスシローを抜く日はくるのか?

 企業にとって、“足元の強さ”とは何でしょうか。

 スシローの足元の強さの具体例として、販管費率という指標を紹介します。こちらは売上高に対してどれだけ費用がかかったかを示す数値です。人件費、運搬費、広告宣伝費などがこれに当てはまります。

 販管費率はくら寿司が約52%なのに対し、スシローは約47%です。この数値は低ければ低いほど、経済効率が良くなります。つまり、スシローはくら寿司よりも「コスパが良い」のです。

 また1店舗ごとの売上を見ても、くら寿司の約2.6億円に対し、スシローは約3.3億円。こちらもスシローに軍配が上がります。

 スシローの売上高が大きい理由には、寿司自体の質を支える仕入れや店内調理、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を活用することによる顧客満足度の向上など複数あります。また、コロナ渦で導入した非接触で持ち帰りできる「自動土産ロッカー」などの取り組みもあります。

 販管費率と1店舗ごとの売上を紹介しましたが、スシローは経営基盤が非常に堅実かつ強固なのです。くら寿司は好調とはいえ、簡単に乗り越えることはできないでしょう。

 特に、くら寿司では従業員の内部告発報道や、スタッフのSNSでの投稿による炎上など、内部での問題も発生しています。決して、企業として業績がよいからそのまま勢いづくとは限らないのです。

 両者の戦略の違いから、今後の戦略と展望がおわかりいただけたのではないでしょうか。

<文/馬渕磨理子>

【馬渕磨理子】
経済アナリスト/認定テクニカルアナリスト、(株)フィスコ企業リサーチレポーター。日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでマーケティングを行う。Twitter@marikomabuchi

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