◆社会人を経て、医学部受験を目指した25歳女性

 一般的に大学は「高校を卒業してすぐに入るもの」と考える人が多いだろう。大人になりきれていない時期に将来の進路を決めることを迫られ、なんとなく進路を決めてしまう人も少なくない。しかし社会に出て働いているうちに、初めて勉強したい分野が見つかる人もいるだろう。そういった場合でも、仕事環境や家族の都合を考慮し、新しいことを学ぶために一歩踏み出せない人が大半といった印象だ。

 そんななか、大手企業の会社員を辞め、医学部受験に挑戦している女性がいる。
 
◆大手企業を1年で退職し、受験を決意したきっかけ

 千葉県に住むKさん(25歳)は、大学卒業後、誰もがうらやむ外資系企業に就職した。その会社を1年で辞め、医学部合格を目指して受験勉強をスタート。そして昨年度、特殊な浪人生として臨んだ初めての医学部受験は全滅に終わり、現在は「25歳の2浪目」として日々勉強に励んでいる。他人からは順風満帆にみえる生活を捨て、「医学部受験」という茨の道を選択するに至ったKさん。そこには一体どういった経緯があったのだろうか。

「大手の外資系企業に入社しましたが、もともと海外で働きたい想いが強かったので、会社に入った数ヶ月後にワーキングホリデービザの抽選に応募してみたんです。そのビザが当たったので、会社を辞めて海外に行こうと思っていました。でもそのタイミングでコロナ禍に突入してしまい、海外渡航を断念せざるを得なくなりまして……。会社に残るか迷ったのですが、このままずっと会社員で働き続けるイメージができなかったこともあり、退社を決意しました。

その会社で1年働いたのですが、今まで自分の得意だと思ってた分野で、より優秀な人を目の当たりにしまして……。『何か他にもやらないといけない』という気持ちになり、『一生自分の興味の持てる分野で勉強したい』と考えた結果、医学を学ぶことにしました」

◆医学への興味は「うつ病」と「セックス」から

 3年前に卒業した大学では、日本文学を専攻していたというKさん。文学と医学は、あまりにも乖離した分野に思えるが、医学への興味はどこから芽生えたのか。

「実は私が小学生の頃から父が鬱病を患っていて、精神病に関することは以前から興味があったんです。現役の受験生の時に心理学部を受験しようと思ったのですが、就職先を心配した両親からの反対があり、結局は就職に強い女子大に進学しました。でも大学で文学を通して臨床心理を学んで、改めて精神に関することは興味があると感じていたんです。

また、私自身セックスが大好きで……笑。人によってオーガズムがそれぞれで、女性がどうしたら気持ちよくなれるのか、まだ明確に言語化されていないんです。私がセックス好きゆえに『女性のオーガズムを研究したい』と思ったのも、医学を志した理由の一つです。要するに、体や脳に対する興味が強かったんですよね。そういった理由で、もう1回勉強するなら医学だなと思いました」

◆医学部志望のきっかけは「元カレの母親」も影響

 ご存じのとおり、医学部は他学部に比べて圧倒的に受験難易度が高い。精神的なことや体に関して興味があるなら、心理学部や生物学部でも研究は可能だろう。自らハードルを上げ、医学部にこだわる理由とは一体なんだろうか。

「心理学部でも生物学部でも、どの方向からでも研究していけるのは理解しています。逆に、医学部だと研究できる範囲も医学寄りになるワケで。より受かる確率の高い学部を薦められることは多いです。でも、もう一度大学に入りなおして、大学院まで6年間通うなら国家資格が欲しいし、就職のことを考えると、やはり医学部だなと……。研究職はなかなか枠がないし、給料も高くないと聞くなか、医者はバイトでも高額ですから。一度社会人を経験している分、将来の生活に対してシビアになっているのかもしれません。

それと、大学在学中に4年間付き合って、結婚まで考えていた元カレが医学部だったのですが、彼の母に『あなたとは釣り合わない』と反対された出来事も、医学部にこだわる理由の一つかもしれません。心のどこかで『絶対に見返したい』という気持ちがあるのだと思います」

 続けてKさんは、「今までは運だけで生きて来た」と言い、「本気を出したらどこまでやれるのか、自分の実力に挑戦してみたいという気持ちもある」と話してくれた。

 
◆社会人経験があるのに「一般入試」で挑戦するわけ

 こうして、医学部入試を目指すに至ったKさん。大学入試は広く門戸が開かれていて、様々な受験様式がある。社会人を経験していることを生かした入試方法や、大学を1度卒業したからこその学士編入などは考えていないのだろうか。

「一般入試以外の試験を受ける選択肢は早い段階で消しました。そもそも理系出身でないと厳しいみたいで……。バックグラウンドとして、理系の研究を大学時代にやっていたとか、前職がエンジニアや建築士であったとかであれば強みになるとは思いますが、私は生粋の文系人間。海外の大学に進学することも頭をよぎりましたが、生活費や学費のことを考えると、非現実的で諦めました」

 医学部は学費がかなりの高額である。私立よりさらに難易度は上がるが、少しでも学費が抑えられる国立大学の医学部をKさんは目指している。
 
◆社会人経験者としての苦悩

 Kさんは現役時代、私立文系に絞って勉強していた。受験勉強していた時期からブランクがあり、さらに学んだことのない理系科目の学習も加わることで、勉強の大変さは並大抵のものではないだろう。社会人を経験をしてからの受験勉強することの苦難を聞いた。

「まず塾選びに苦労しました。医学部の予備校は入塾の際にテストがあって、それに合格しないと通うことすらできないんです。理系科目をイチから始めるような私を受け入れてくれるところを探すのが大変でした。

それと、社会人を経験した受験生は『塾講師に素直になること』が、なかなか難しいです。仕事をしているときは、なんでも『できます』と答えて、期日までになんとか終わらせてきましたし、もし終わってなかったとしてもなんとかなりました。でも受験生の立場では、できないことは『できない』、やっていないことは『やっていない』と素直に伝えないと、勉強計画が狂ってしまう。大人になってプライドも一丁前になり、これがなかなか素直に言えないんですよね」

 一方で、一度大学生活と社会人を経験しているからこその強みもあるという。

「英語と国語は現役の時から得意でしたが、歳を重ねてさらにできるようになっていました。大学時代に文学を学んだことや、インターンで英語を使って仕事をしていた経験も大きいですが、大人になったことにより、認識力が上がっているように感じます。『大人になったら記憶力が悪くなる』という説は、この年齢ではまだ感じられないですね(笑)」

 現役当時に勉強していた時よりも、格段に勉強の進みが早いと語るKさん。「大人になって、自然とできることが増えた」と彼女は言うが、おそらくは、大学在学中から今に至るまで、Kさん自身が絶やさず頭を使ってきたからだろう。考えるトレーニングを怠らなかった結果、受験勉強のブランクや年齢というデメリットに負けない能力が身に付いたのかもしれない。

 
◆4人のセフレと「25分間の息抜き」

 1日10時間以上、1年半の勉強を費やして挑んだ去年の受験。彼女の努力は目覚ましいものであったが、残念ながら医学部合格とはならなかった。そして2浪目に突入したKさんに、去年の反省点を聞いた。

「去年は勉強のために全部を我慢しました。なるべく人と会わないようにしていたし、大好きなセックスも控えて、禁欲生活を送りました。刺激的なことが一切なかったので、勉強が一番楽しいと思えていたのは、すごく良かったと思います。

その一方で、自分と向き合いすぎて、精神的に参ってしまい、途中で体調を崩してしまいました。できない自分を責め続けて、結果的に進歩がなかった一年間だったと思います。ストレスをため込まずに上手に発散することも必要だと感じて、今年はセックスを解禁することにしました」

 Kさんには現在、4人のセフレがいるという。彼女は「セックスしてストレスを発散できて、メンタルを保てている」というが、勉強の妨げにはならないのだろうか。

「セフレと会うときは、車で迎えにきてもらい、そのままラブホに直行します。ラブホ滞在時間を25分までと決めて、終わったらそのまま家に送ってもらうので、あまり時間はとられません。家に付いたら身も心もスッキリしているので、しっかり勉強に集中できます。普通の人に理解してもらえるかはわかりませんが、適度な運動をした後は集中力が増したりしますよね。それと同じです」

 とてもすがすがしい表情で語ってくれたKさん。「セックスを我慢した」という去年の反省を活かして、今年はストレス発散し、上手いこと勉強を続けられているそうだ。
 
◆息抜きでセックスをする浪人生は、果たして合格できるのか

 受験生には様々な息抜き方法があるが、さすがに「セックスを息抜きにしている」と語る女性は少ないだろう。果たして彼女は合格することはできるのだろうか。来年の受験についての自信を聞いた。

「絶対に受かります。そう言うしかないです。最初は『受からないかもしれない』『受からなかったらどうしよう』とか、そんなことを考えながら勉強していました。医者になることを、自分自身が1番信じてなかったんですよね。口では目標っていくらでも言えますけど、肝を据えて行動まで落とし込むくらい、本当の意味で決意することが去年はできていなかった。自分にできることは、覚悟を決めて、自分を信じてやることだけです。

幸運なことに私の親は、教育だけは『どんなに遠回りしてもいいからやりなさい』と言って応援してくれています。実家に戻っているため、生活費の心配もない。とはいえ、一般のサラリーマン家庭なので、塾代は自分で払わなくてはなりません。2年目の今年は、会社でためたお金も尽きてしまい、バイトをしながらの勉強になっていますが、バイト中も勉強をさせてもらえる職場で助かっています」

 環境に恵まれていることを日々実感しているというKさん。自分の置かれた世界から飛び出すことができない人がいるなかで「自由に挑戦できることは幸せです」と語った。最後に「このチャンスを無駄にしたくない。絶対に勝ちあがります」と強い気持ちをみせてくれた。

取材・文/みなもとひかる

【みなもとひかる】
お酒は飲めなくてもおつまみ大好き。趣味はゴルフ・筋トレ・パチンコ・神頼みの自称清楚系純情女子ライター。長所は諦めが悪いこと。「なせばなる」「なんとかなる」をモットーに、何事にも全力で取り組みます!  Twitter:@minnapikapika