◆NHK朝ドラ『ちむどんどん』をめぐる賛否の声

 NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』に賛否両論あるのはよく知られている通り。

 批判されるのはやむを得ないだろう。ヒロインの暢子(黒島結菜)は他人の心情が推し量れない人。その夫・青柳和彦(宮沢氷魚)は、6年交際した婚約者の大野愛(飯豊まりえ)を葛藤なく捨ててしまった。これでは見ていてイラッとする。

 それに留まらない。暢子の兄・比嘉賢秀(竜星涼)は29歳になっても勤労意欲が乏しく、一攫千金を狙ってばかり。ついには1976年から法規制されたマルチ商法にまで手を出した。正真正銘のアホだ。母親の優子(仲間由紀恵)は賢秀の自立にマイナスだと気づかず、甘やかし続けている。やっぱりイラッとさせられる。

◆決して悪くない視聴率

 だが、視聴率は決して悪くない。例えば暢子と和彦が「アッラ・フォンターナ」で披露宴を行った18日放送の第90話は世帯が16・5%で個人全体が9・3%。前作『カムカムエヴリバディ』の終了約1カ月前の水準と変わらない(3月7日、世帯16・8%で個人全体9・3%、いずれもビデオリサーチ調べ、関東地区)。

 朝ドラは固定視聴者が多いせいもあるが、無意識のうちにイラミス(イライラするミステリー)と同じ感覚で見ている人もいるのではないか。そんなドラマは過去にも無数にあった。例えばTBS『恋はつづくよどこまでも』(2020年1月期)である。主人公の新人ナース・佐倉七瀬(上白石萌音)がミスを繰り返すことなどから、見ていてイラッとさせられることが少なくなかったが、それもスパイスとなり、ヒット作となった。

 もちろん『ちむどんどん』にイラつかず、純粋に楽しんでいる人も大勢いるはず。ドラマも映画も演劇も評価は人それぞれ。十人十色である。みんな同じ感想を抱いたら、かえって気味が悪い。

 ただし、聞き捨てならないのは「沖縄の人が怒っている」という声である。本当か? 誰かを傷つけるドラマや反社会的ドラマがあったら、それは許されない。一人ひとりが「傑作」、「駄作」などの評価を下すのとは別次元だ。沖縄の人に聞いてみた。

◆ドラマの評判を自治体に尋ねてみた

『ちむどんどん』の沖縄の部分の舞台になっているのは山原村だが、これは架空の村なので、まず同じ山原地区の恩納村役場の広報に尋ねた。

「『ちむどんどん』に怒っている人ですか? 聞いたことがないですねぇ……」

 こちらの質問が思いも寄らないものだったらしく、驚かれてしまった。

 同じ山原地区の金武町役場にも聞かせてもらった。こちらは電話を担当者に取り次いでくれた総務課職員に取材主旨を伝えた途端、ぷっと吹かれてしまった。あり得ない話と思ったらしい。その後、質問に答えてくれた観光課職員はこう即答した。

「私のところには怒っているという声は上がってきていませんけどねぇ」

 確認しないで判断する訳にはいかなかったが、そりゃそうだよなぁ。所詮、フィクションなんだから。例えイラつく場面があろうが、沖縄の人が目くじら立てることはないだろう。

 映画『翔んで埼玉』(2019年)で埼玉県人が怒ったなんて話は聞いた試しがない。群馬県人を揶揄した2017年のドラマ『お前はまだグンマを知らない』(日本テレビ)を見た群馬県人の親族はゲラゲラ笑い転げていた。まぁ、そんなもんだろう。

◆当時の暮らしぶりはリアルに再現

 沖縄の2つの県紙「琉球新報」と「沖縄タイムス」も4月11日の放送開始前から現在まで『ちむどんどん』を全力で応援している。もちろん両紙とNHKは全く無縁の組織だが、連日のように関連記事を載せ続けている。全記事に目を通したが、批判や苦言は一切ない。

 地元を舞台にしたドラマである上、糸満市出身の黒島結菜(25)や浦添市出身の仲間由紀恵(42)ら県人が多く出演している朝ドラだから、後押しするのは当然だろう。7月26日付の沖縄タイムスにはこんな記事が載った。

「『ちむどんどん』の熱心な視聴者という(糸満市の)當銘真栄市長。黒島さんは娘の高校時代の先輩で、市長の母の旧姓は黒島と『何かの縁でつながっているのかな』と話すほどだ。以前から知っているだけに『ヒロイン抜てきは本当にうれしい。出身の糸満もアピールしてほしい』と喜ぶ」(沖縄タイムス)

 地元の思いを象徴する記事だろう。

『ちむどんどん』は賢秀が懲りずに繰り返し騙されるなど、リアリティーに欠ける部分が少なくない。「ありえねぇだろ」と言いたくなる場面がたびたび。これもイラッとする理由の1つだ。半面、1972年に本土復帰する前の比嘉一家の暮らしはリアルなのだという。

「もうまさにあのドラマの感じですよ。(山原地区のある北部は沖縄市、宜野湾 市、糸満市などの)中南部とは違って田舎でしたからね。返還前はいわゆる”アメリカ世”の時代で、沖縄もアメリカの影響を多く受けていましたが、北部はその影響は少なかったですね。基本的には自給自足の生活でした。豚を飼って正月とお盆にはそれをつぶして食べる」(北部観光協会などで構成する「やんばるチームどんどん協議会」会長・當山清博さん、沖縄観光情報WEBサイトより)

◆広げた大風呂敷を畳めるか?

 1970年代に都内で砂川智(前田公輝)が軽3輪トラックに乗っているなど時代考証には首を捻る場面がいくつかあるが、かつての沖縄の再現には力が入っているようだ。制作陣の沖縄への誠意の表れなのだろう。

 9月30日の最終回まで残り1カ月半弱。今後はどうなるのか。制作陣は賢秀、良子(川口春奈)、暢子、歌子(上白石萌歌)の本土復帰からの50年を描くというから、まだ40年以上ある。随分とタイトな進行になる訳だが、どう見せる? 

 万一、ジョン・カビラ(63)のナレーションで、「はい、はい、30年が過ぎましたよ」なんてやったら、また誹りを受けかねない。広げた大風呂敷を畳まないことになる。正念場だ。

 比嘉家4兄妹にとって本土復帰とは何だったのか? それを描かないと、復帰50周年記念作である意味が半減する。せめて4兄妹が返還をどう思っているのかくらいは見せてほしい。

◆登場人物にはイラッとさせられるけれど

 朝ドラだからシリアスな問題に踏み込むのが簡単でないのは分かる。脚本を書く羽原大介氏(57)にとってもそれが一番悩ましい問題であったはず。沖縄返還後の50年は、朝ドラでは正面から描けそうにない本土との経済格差、米兵たちによる鬼畜のごとき犯罪と県民の猛烈な怒り、米軍施設の約70%が集中する圧倒的不公平を抜きにして語れないからだ。

 現時点までに描けた沖縄の素顔は、県人同士が寄り添って不当な偏見に抗った横浜市鶴見区の沖縄県人会、優子が振り返った米軍による那覇市への無差別爆撃「10・10空襲」(1944年)、遺骨収集する嘉手刈源次(津嘉山正種)が語った「沖縄戦」(1945年)。これに留まるのかも知れない。

 ただし、これを描いたことは評価されるべきだ。明るく愉快でハッピーなだけの物語にしてしまったほうが、はるかに簡単に紡げるのだから。沖縄の「光」と「影」を描こうとしているのは分かる。

 もっとも、明日からはまた暢子、和彦、賢秀らにイラッとさせられるに違いない。朝から「オイオイ!」と言いたくなるはず。それでも見せちゃうのだから、視聴者を惹くのがうまい。奇特な朝ドラである。<文/高堀冬彦>

【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞東京本社での文化社会部記者、専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」での記者、編集次長などを経て2019年に独立